第1章 拾い物
「わかったよ!誰も行かねえなんて言ってねえってばよ、このエロ仙人!」
ぶうぶう言いながら下生えの向こうに消えるナルトの気配を背中で確かめながら、自来也は爺の抱え込む女の顔を覗き込んだ。
酷い顔をしている。やつれて目の下が真っ黒だ。行き倒れに有りがちの脱水症状を起こしているらしく、案の定肌や唇がカサついていた。
目の下を捲くれば粘膜は真白く、重度の貧血を起こしているのがわかる。
自来也は眉をひそめた。
「宿をとってやる事は出来るが、コイツは医者に診せた方がいいぞ。ただ寝かせときゃ何とかなるモンじゃねえじゃろ、コレは」
言われた爺が目を泳がせて顔を伏せた。
「…このコはこれで医者の端くれだよって、気付きさえすれば我で何とか為せるのよ」
「医者?なら何だってこんなになってんじゃ。医者の不養生か?迷惑じゃなぁ…」
しかめっ面の自来也に爺が呆れる。
「正直な御仁よなぁ…」
「正直で口も堅いぞ。訳ありなんじゃろ?事情を話してみる気はないか」
「事情なぞないえ」
しれっと言う爺にカチンと来る。
自来也はほーうと鼻を鳴らして、体を起こした。
「なら宿くらい自分でとりゃいいじゃろ。通りすがりの善人に迷惑かけるな」
「通りすがりの善人なら弱った女子を見捨てやせんわえのう、もし?」
「女ならどんなんでも我慢して助けんでもないが、見苦しい青坊主の爺は置き去りにするかも知れんなぁ。いくら善人でも人助けの相手は選びたいわ」
「わちはこう見えて心は婆じゃ」
「…自分を追い詰めてどうすんじゃ、アンタは。わしの人助けメーターがダダ下がりしたぞ、今」
「水持って来たぞ、エロ仙人!」
ガサガサッと再び葉っぱ木っ端まみれのナルトが飛び戻って来た。
水の滴る竹筒を自来也に突き出し、中腰で爺と女を見比べる。
「病人ってこの女の人?…え?死神博士?」
「…ひでェ事言うなあ…思ってても黙ってるもんじゃ、こういうときは」
竹筒の栓を抜いて懐から出した懐紙をひろげ、自来也は渋い顔をした。懐紙の中身は塩。ただの塩だ。
しかし爺は疑わしそうにその結晶体を凝視して憚りない。
「…何の薬だえ?」
「薬じゃねえよ。塩だ。脱水症状にゃただの水じゃいかんだろ。塩分も摂らせねばよ」
「ほんに塩か?ちと試しに舐めてみせや」
「メンドくせェヤツじゃなぁ…おい、ナルト」