第3章 サソリ
枯れ葉で覆われた地面にうつ伏せる地味な色味の貧相な姿は、最早自ら進んで擬態しているか、それこそ自然に還ろうとしているようにしか見えない。
馬鹿でしょうもねえ女だとは思ってたが、いよいよ馬鹿でしょうもねえな。何やってやがんだ、こんなとこでよ。
見つけたくもないものを見つけた不快さに、鼻にシワが寄る。
行き掛けの駄賃に踏み付けてやろうかと思い付き、止める。
生きているのか死んでいるのか知らないが、藪を突いて蛇を出す必要はない。ここはひっそり立ち去るべきだろう。
朝晩冷えるからな。放置しときゃキッチリ土に還んだろ。
念のため、春にまた見に来よう。その頃には今よりもっと大自然の一部になり切っているだろう。それが自然の営みというものなのだから。
何だ、自然てヤツも悪かねえな。
残った骨の程度によったらば、回収して傀儡の材に使ってやってもいい。死んだ後なら随分付き合い易くなる筈だ。何しろあの慇懃無礼な減らず口を聞かずにすむ。
……よし。俺は今日、山じゃ誰も見なかった。次の春に山で拾う骨ァ誰のモンかもわからねぇ。牡蠣殻?誰だそりゃ、知らねぇよ。
我知らず薄笑いしながら考え、フと気が付く。
いや待て。もうすぐ冬だ。ここァ山だしな。冷えんのが早え。身が残ったまんま凍りやがったら春にゃ絶賛腐れ進行中じゃねえか。じゃ夏…は暑ィから出歩きたかねえ。冗談じゃねえぞ。何でバ牡蠣殻ン為にンな事しなきゃねんだ。ねえ。ねえな。じゃ秋か?いや、そんな放置してたら流石に獣やら雨風にヤラれて使える状態じゃなくなってやがんだろう。駄目だ。やっぱり自然駄目だ。使えねえ。
サソリは、ピクリともしない牡蠣殻を見やり、頷いた。
……俺は何にも見なかった。当分このシマにゃ来ねえ。いや、当分じゃねえな。もう二度と来ねえ。よし。決定。以上。終わりだ。
「……何かすげぇスッキリしたな…」
清々しい思いで踵を返したら、微かに咳き込むような空えづきするような音がした。
「……ちッ」
生きてやがる。
動きを止めて背中で後ろの様子を探る。身じろぎするような気配はない。
ないが、サソリは眉をひそめた。
僅かに甘い匂いがする。
腐った桃のような纏わり付くくどい香り。
「……」
サソリは無表情に佇んだ。
こいつ、草で何してやがった?
…この香り。草の秘薬。