第2章 木の葉
「外商の手を広げた今こそ、身の軽い幹部が必要なのだが実際には私が自身で動くしかない。こうなってみると功者である牡蠣殻が去ったのは改めて痛手だ」
「磯の人は大概失せれる筈だけど?でなきゃ磯の里移りは無いよね」
カカシが首を傾げる。
「里移りには導き手の功者が必要な筈だ。功者の誘導と、集団で移動する増幅効果に依って目的地を定める精度を高めている。個々で大きな距離を動く事は多くないし、磯が閉じているうちは必要もなかった。そもそも功者程自在に失せられる里人はいないんだ。そうだな、波平?」
思いがけずアスマが答えた。
「五代目に聞いたか?それとも薬事場か?」
波平が眉を上げて笑う。
「薬事場だ」
「仲良くやってくれてるようで嬉しいよ」
「そうだな。木の葉に馴染んでくれて俺も嬉しいよ。何せ他ならぬお前からの頼まれ事だしな。連中にはここにいる限り、出来るだけ穏やかに暮らして欲しいと思ってるし、これは五代目の意志でもある」
「有り難い事だ」
「そう思うなら早く五代目に会いに行け。五代目の事だ、お前が来るのは予見していると思うぞ?」
「だから先にお前たちに会いたかったんだ」
波平は厭に鮮やかに口角を上げると、伏せた湯呑みを押しやって立ち上がった。
「薬事場の磯人に気を付けてやってくれ。私の姉は人心の隙に滑り込む機を見るに敏な人だ。…悪い事に取り違えた優しさで相手を思いやるから始末に負えない。その気持ちには嘘がないだけに」
「…牡蠣殻さんの事…」
言いかけたシカマルを波平は手を上げて止めた。
「これは五代目にもハッキリお伝えするが、手出し無用だ。匿う事も生け捕る事も、まして始末をつける事も」
何となく、カカシと波平の目が合った。…何となく。
「木の葉においては不干渉であって欲しい。草から何かしがの要請があっても、先ずは私に伝えて欲しい旨、五代目にくれぐれもお願いするつもりでいる。…聞き入れられるかどうかは別にしてね」
だから先ずお前たちと話したかったのだと波平の目がまた言う。
私を付随する牡蠣殻という人間。
この一語を植え付けるが為のこの場だったのだ。
馬鹿な。そんな情は通用しない、浮輪さん。
シカマルは波平から苦々しく目を反らした。
そんな甘いモンじゃねえよ。アンタだって知ってるだろ?