第2章 木の葉
言い足り気な様子のアスマを目顔で抑えて、波平はシカマルに視線を移した。もの問いたげで心配そうなシカマルに笑顔を見せる。
「カカシの言う通り、私も暇ではないから手短に言いましょう。牡蠣殻がビンゴブックに載りました」
「…はい?」
ポカンとしたシカマルに頓着なく、波平は笑顔のまま畳み掛けた。
「あの色味の悪い柿と同じ手配書に名を連ねたのですよ、私の元補佐が」
「待て、波平。俺も初耳だぞ。どういう事だ」
口をつけかけた湯呑みをカウンターに置いて、アスマが割って入る。
「大体アイツ、生きてたのか?大蛇丸と消えてから消息が知れなかった筈だぞ」
「牡蠣殻は大蛇丸とは居ない。今大蛇丸と居るのは藻裾だ」
「はああぁ!?何やってんだ、アイツは!?」
シカマルが腰を浮かせて頓狂な声を上げる。向こうのテーブルのメンバーが何事かとこちらを見た。
「何でもないからね。ちょっとフザケてるだけだよ」
カカシがニコニコと手を振って取り繕う。訝しげないのと目が合って、シカマルは無理に口角を上げて頷いて見せた。
「おい!何でアイツが大蛇丸といるんだ!?可笑しいだろ、全然話が繋がらねえ!アイツは砂に行くんじゃなかったのか!?」
小声で怒鳴る器用なシカマルを感心したように見ながら、波平は眼鏡を押し上げて首を振った。
「奈良くん。申し訳ないが今は牡蠣殻の話をしている。木の葉に残った磯の者に関わる火急の要件だから私も見腰を上げたのです。草の頭首が身罷ったのは?」
「ああ…チラッと聞いたな」
砂のテマリから届く手紙に、夏の虫の名がついた草の頭首が頓死した旨を告げる内容があった事を思い出す。
「草は閉じた里だからね。取り引く以外の親交がない。翆為蛍の葬儀も大名さえ立ち入れなかったって聞いたけど、本当かな」
シカマルの前に腕を伸ばしてアスマの湯呑みを攫い取り、くっと中身を煽ったカカシが首を傾げた。
「草はそんなに強い里だったかねえ。金儲けに熱心な目端の効く里ってイメージが強かったから意外だな」
煮魚を突付いてシカマルにアーンと差し出して厭な顔をされ、笑いながらまた湯呑みを傾ける。
「牡蠣殻がビンゴブックに載った。草の翆が死んだ話が出る。きな臭いね、波平さん?」