第2章 木の葉
「そうして"くれない"か。お前じゃ鈍くて話にならない。是非」
「……波平。…何か怒ってる?…らしい気がするなぁ…。あの、何かごめんな?よくわからんが、えー、その、何か悪い、な?」
「怒ってなぞないよ。気にしないで"くれない"か」
「いや、もう凄い怒ってんだろ?めちゃくちゃ怒ってんだろ?……でも何で?」
「何で私が怒るんだ?お前は牡蠣と柿が食いたいんだろう?今度山のように送ってやるからな、紅のところに」
「ば、な、何言って…」
「全くだ。何を言ってるんだか、私は」
店員が運んできた一升瓶を受け取って、波平は溜め息をついた。
「幸せなお前が妬ましくなった。悪かった。許して"くれない"か」
事の成り行きを見守っていたシカマルが額に手を当て、カカシはにっこりする。
「波平さんは一回怒ると長いからなあ。アスマ、二人で席を移って"くれない"?」
「やーめろッ!すまん!悪かった!…しかし何がだ?」
「いやもういい。ちょっと黙ってろよアスマは」
見かねたシカマルが口を開いた。カウンターに身を乗り出して波平を見る。
「何の用だ、浮輪さん?」
「用がなきゃ来ちゃいけないですか?冷たいですねえ、奈良くんは」
のほほんと言う波平に、カカシが薄っすらと笑った。
「用もないのに顔を出すほど暇でもないでしょ?波平さん」
「まあ私は磯の雑用係ですからね」
湯呑みに手酌で酒を注ぎ、すうっとお茶の如く呑み下した波平が、アスマに笑いかける。
「二杯目も手酌かな?」
「…やっぱ怒ってんな?お前まだ牡蠣殻にこだわってんのか」
苦笑いのアスマが一升瓶を傾けて乱暴な酌をした。
「こだわると言うのかね、こういうのは」
アスマから酒を引き取って返杯しながら、波平も苦笑いする。
「白黒つけるだけが人を思う事じゃないだろう。そして矢張り、何がどうなるかは最後まで誰にもわからない。だったら私はただ自分に正直でいようと思うよ。気は長い性分だ。結果を待つ事にも慣れている。そういう訳だから、茶化すのは止して"くれない"か」
「…茶化したってんじゃねえけどな。気を付けるよ」