第2章 木の葉
アスマの隣にスルリと座り込んで通りかかった店員に無茶な注文をした眼鏡の男に、シカマルは頭を抱えた。
「……やっぱりさっき見かけたのはアンタか、浮輪さん…」
手拭いで手を拭きながら、半眼の磯影が茫洋と頷く。
「ああ、やっぱり気付いてました?目敏いですねえ、流石は奈良くんです」
浮輪波平。
春に里同士の取り引きの話をまとめる為に会ったときは悲愴なトチ狂い方をしていて心配したが、今は初めて会ったときの茫洋とマイペースな波平らしく見えた。
「田酒か…じゃ、俺、お握り貰うわ。おーい、ここ、塩握り二つ」
すっかり田酒を酌み交わす気のアスマが手を上げて追加注文する。
「ホント好きだねえ、二人とも。てか、酒にお握りって何だかね。米と米じゃない」
カカシに言われてアスマはフッと笑った。
「馬鹿お前、ポン酒にお握りはミラクルマリアージュだぞ?山岡士郎公認の究極の味よ。猿蟹合戦万歳」
「美味しがってる人たちの巻の26?お菓子対決ね。牡蠣の清蒸とかタイのタイ…」
「牡蠣な!牡蠣の清蒸、あれテッパンで旨そうだよな?食ってみてんだよなー。あと、お菓子対決!至高の干し柿がいいんだよ。スゲー干し柿な。あれも食ってみてぇんだ、半端ねえ干し柿。俺ァ甘党じゃねえがあの干し柿はいい。興味ある。流石至高の干し柿だよ。牡蠣もいいけど柿もいい」
「……」
「……」
この髭は、長年の友がここ一年生死も知れぬ牡蠣の殻と胡乱な干した柿にどれだけ振り回されたか、わかっていないらしい。
今、カキを何連呼した?
シカマルとカカシは髭と眼鏡を交互に見て、興味深く次の展開を待った。
「…アスマ、ちょっと箸をとってくれないか?」
波平が穏やかに笑いながら箸立てを指した。
「ん?ああ」
「悪いな。お前がとって"くれない"と皆の前に身を乗り出す事になってしまうからな。私からは一番遠い。皆が退けて"くれない"と手が届かない」
「……」
それならカカシに頼むべきでは?
カカシとシカマルは顔を見合わせた。
波平はアスマから箸を受け取りながら尚も続ける。
「そう言えばお前、なかなかいい報せを"くれない"な?一張羅を仕度して待っているのに、そろそろ着る機会を"くれない"ものかね。そうして"くれない"と折角の衣裳が箪笥の肥やしにしまう。なあ、紅にもそう伝えて"くれない"か?」
「?」