第16章 迎えに来たんだ。
ばっさり言うサソリを波平は不思議な思いで眺める。砂の隠居や我愛羅、カンクロウとテマリの顔が思い浮かんだ。目の前のこの男は、彼らと同じ砂の者。
「…あなたは…」
「ああ?」
煩わしげに眉を顰めるサソリに釣られ、波平は苦笑した。
砂に戻りたいと思う事はないのか。
愚問だ。
答えはないだろう。
出かけた問いを呑み込んで、波平はトンビの前を合わせた。
「失礼します。夜の明けきる前に戻りたいので」
「客分の身の上では不自由な事も多いでしょうねえ」
カブトが肩を擦りながらさも気遣わしげに言う。
「まああなた達は何処へ居ても主分にはなり得ませんものね。慣れたものなのかな」
「ええ、慣れたものですよ」
波平はふたりに背を向けたまま、振り向きもせずに穏やかに笑った。
「それが磯ですから」
足元で凍った土が鳴る。
自分の足で牡蠣殻を迎えに行く。
やっと。