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連れ立って歩く 其の四 和合編 ー干柿鬼鮫ー

第16章 迎えに来たんだ。



目指す場所はわかっている。だから失せてもいい。
しかし波平は敢えて霜立つ獣道を踏んで山を登った。




懐が軽い。喪失感があった。








「確かに」

海士仁に指定された場所には、薬師カブトが居た。傍らに地を這うような格好の傴僂の男。黒地に紅の雲の浮く外套は、見たくもない暁のものだ。
砂のサソリ。
波平は白い息を吐きながらふたりの前に深水の書き付けを投げ出した。

「これで牡蠣殻は貰い受けます。今後一切の関わりは無用」

殊にカブトを睥睨して波平は硬く言い捨てた。

カブトが薄く笑って書き付けを拾い上げる。

「ひどいなあ、浮輪さん。僕はあなたの味方なのに」

「牡蠣殻は何処です」

にべもなく撥ね付けた波平は、チャリと鳴る金属音と共に放られたものを反射的に受け止めた。
サソリが投げ付けたものらしい。外套の裾から覗かせた尾をシュッと振って、暁の傀儡使いはカブトから書き付けを取り上げた。

「俺の隠れ処はこの上だ。ヤツはそこに居る。行くんならついでにそいつを返しとけ」

手に絡んだ鈍色の鎖、鈍色の指輪を見て波平は顔を顰めた。

「これは?」

「返しとけよ。行き掛けの駄賃だ」

「牡蠣殻のものですか」

「どっちが受け取るか知らねえが、まあ返しとけ」

意味ありげに言ったサソリの懐に書き付けが消えた。茫洋とそれを眺める。杏可也に託されてから長く自分の懐にあったそれは、深水師が記した牡蠣殻の血と体の記録だ。備考を追えば牡蠣殻の功者としての歩みまで透ける、謂わば牡蠣殻の来歴そのもの。

気付くと掛守か何かを失くしたような心許無さがすうすうと懐を吹き晒していた。

「ザマァねえな磯影。牡蠣殻を連れてくのに牡蠣殻を売りやがった」

サソリの嘲笑がガツンと響いた。

図星を指されるのは嫌いだ。

波平は首を振って、無骨な指輪をトンビの隠しに落とした。

「欲しい物を手に入れた上に他人を貶めて嗤う余録まで掠み盗りたいのですか。欲深な」

「欲深で何が悪ぃ?俺は俺のしてぇようにやるのが気に入ってんだ」

悪びれもせずサソリはまた尾を鳴らした。

「詰まんねえ事ばっかりでうんざりしてんだ。テメェでテメェを楽しませても悪かねぇだろ」

「ふふ」

傍らのカブトが俯き加減に笑う。

「成る程。身につまされます。ご最もですよ、サソリさん」

「世辞は止めろ。反吐が出る」
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