第15章 ならそのままで
違和感に目が覚める。
傍らに慣れない温もりがあるのに戸惑った。色こそ青いが人肌だ。
…何ですか、これは…
状況が呑み込めず、牡蠣殻は寝惚眼を瞬かせる。
しかも私ときたらば素っ裸じゃないですか。
厚い胸板に添えていた顔を揚げて、周りを見回した。
窓から仄かな明かりが重苦しく射している。霧が立っているのか曇天なのか、いずれ晴天ではないようだ。恐らくはまだ明け時、陽が昇りきる前の不明瞭な刻限。
…あれ?何だっけ。
何かがあったように思う。ぐっすり寝過ぎて頭が飛んでいるようだ。
珍しい。
もう何年も熟睡していない。いや。なくはないか。砂で干柿鬼鮫と過ごした一夜と、草で酷い不眠から開放されたとき。
久し振りに体が軽いように思う。毒気が抜けた様な心持ちだ。ここ数ヶ月断続的に投与された薬は簡単に抜ける類のものではないだろうが、やけに清々する。
「もう起きたんですか」
頭の上から声が降って来た。その声に目が覚めた。
…ああ…、そうか…。
心臓がぎゅっとなった。こういうのを胸苦しいというんだろうか。いやいやいや、駄目だ、こんなの…
ものっ凄く恥ずかしい。
声の主を見上げられない。冷や汗が噴き出る。
じっと固まっていると、裸の肩に大きな手が掛かった。
「体が冷えてますよ。寒いんじゃないですか?」
…ちょっと待って下さいよ。真っ当に接して来られたら反応し辛いじゃないですか。
殴り付けられて目覚めた方がまだマシだ。そう思った途端、昨晩の全てが堰を切ったように鮮明に思い出された。
「牡蠣殻さん?」
「ひッ」
「は?」
「いや!いやいやいや!失礼致しました!」
何て事をしてしまったのか。
後戻り出来ない焦燥感と頭が爆発しそうな羞恥心に顔が火を噴く思いがした。
「とんだ事をしてしまった…。ご、ごごご、ごめんなさい!」
「…朝っぱらから何を言ってるんですか、あなたは」
…また呆れられた…。
きつく目を閉じて身を縮めた牡蠣殻の頬がパチンとなった。
「寝惚けてるんですか?」
頬を叩いた大きな手が顎に掛かる。
「眠いのなら寝直したらどうです。無理に起きて訳の分からない事を喚かれても困りますからね」
ぐいと顔をもたげられた。それでも目が開けられない。昨夜の今朝で呆れ顔を見るのが怖かった。
「…溺れたような顔してますよ。みっともない。目を開けなさい」