第14章 磯辺に鬼鮫 ー裏ー
「気を変えて欲しいんですか?」
「気を変えられるのも嫌ですが、そうすると貴方は行ってしまうのでしょう?」
「……何です?今度は何の話ですかね」
眉を上げた鬼鮫に牡蠣殻はバツの悪そうな顔で向き直った。掛布を肩から纏って正座し、口を引き結んで逡巡する様子。
「言いたい事があるならさっさと言ったらどうです?言いたくないならそんな顔はしないで欲しいですねえ。煩わしい」
素っ気なく言う鬼鮫に牡蠣殻は眉根を寄せて俯いた。
「…もし!もし!もしこれで今晩の用が済んだと立ち去るおつもりなら、続きをどうぞ、お、おね…おねが…お…お願いしま…おね…」
「…だから何なんですか、あなたは」
呆れ顔をした鬼鮫を見上げて、牡蠣殻は曰く言い難い表情を浮かべる。
「だって干柿さんは共寝なさらないのでしょう?でもですね。恥を忍んで!言わせて貰えば!」
「煩いですよ。今更忍ぶも何もないでしょう。さっさと恥をかいたらどうです」
「…じゃ言いますけどね。有り体に言って私は貴方と朝まで一緒にいたいのです。物凄く。しかしそうするとそれにはそれなりの対価が必要になりませんか?」
「先程までの行為の続きがその対価に値する?つまりあなたにそれだけの価値があるとでも?」
「ありゃ、やっぱり駄目ですか。参りましたね。付録は付けようがないので…どっか行きたいとこあります?連れてきますよ?それじゃ駄目かな…」
鬼鮫は目を眇めて牡蠣殻を見た。
功者の技をこんな風に口にするのを初めて聞いた。この頑なな女の中で、何かが変わり始めている。
腕を組んで首を捻る牡蠣殻に、鬼鮫は溜め息を吐いた。薄い背中に手を回して掛布ごと抱き寄せ、長い髪に鼻を埋める。
「下らない事ばかり言ってると本当に続きを始めますよ」
「いいですよ。あ、いや、お願いします」
「馬鹿言ってないで横になりなさい。側にいると言ったでしょう」
「…何です。何か企んでますか?」
「…どうしてそうなるんです」
「干柿さんの優しさはお釣が大きそうな気がして気が抜けません」
「それは素直過ぎるあなたに私が思うのと同じ事ですよ。互いに付き合い辛いですねぇ」
「難儀ですねえ」
包み込むように牡蠣殻を抱えて寝台に横たわり、互いの顔を見合わせる。