第14章 磯辺に鬼鮫 ー裏ー
「さあ、いい加減覚悟を決めて心構えして下さい。さっきも言いましたがここから長いですからね。頑張って下さいよ、牡蠣殻さん」
「厭です」
「駄目です」
「あのねえ、干柿さん。さっき言ったように私は一回一回を大事にしたいんですよ。一遍に何回もやったら有り難味がなくな…あ、待て、ちょっと待て」
「ピロートークは終わりです」
「やっぱり枕に何か仕込…くッ」
「ピロートークについては後で気が向いたら説明してあげなくもありませんよ。牡蠣殻さん?」
「……干柿さん、待って下さい、ちょっと狡い、あ、コラ、う…ッ」
「狡い?何が狡いんです?言ってみなさい。聞いて差し上げますよ、言えさえすれば」
「…ちくしょ…」
「言葉が汚いですよ、控えなさい」
「……」
「どうしました?」
「……狡いですよ」
「ふ。そうですか?それはすいませんねえ。とは言え狡い私も悪くないんじゃないですか?どうです、牡蠣殻さん?」
「……」
「いいですよ、黙ってても。体に聞きますから」
「…もう寝たい…」
「寝れるもんなら寝たらいい」
「砂の夜は良かったな…」
「殴りつけられたいなら何時でも遠慮なく言って下さいよ」
「……正直、異物感が半端ないんですよ。何かこう、ぬらぬらしいのがカッカしてて動かれると粟が立って、何ですか、こう、ムズムズする?うねうねする?気持ちいいとか痛いとかいう以前に、兎角妙な……」
「……いつもの不必要に流暢な物言いがいっそ恋しくなるような仕様もなさですねえ…。まあ言いたい事はわかりますよ」
「そうですか?伝わりました?凄いですねえ」
「感じ易くなってるんですよ。今に話す余裕もなくなりますからね。楽しみにして下さい」
「…いやぁ…何か、もう、お腹いっぱいで…後は側にいられれば、それだけで十分幸せなんですけどね、私は」
「あなたのそういうところ、嫌いじゃありませんよ」
鬼鮫はにやりと口角を上げて牡蠣殻を見下ろした。
「いいですねぇ。その気のない相手を嬲って甚振って乱すのは、私の様な嗜好の者には堪らない趣向なんですよ。しおらしく鳴く相手を組み伏すより、取り澄ました顔を歪ませる方が私は好きでしてね。あなた、ときに大変的確に私のツボを突いて来る。上出来です」
「何ですソレは。じゃ、あなたを止める呪文はこうか?お願い、もっと頂戴、鬼鮫さん」