第14章 磯辺に鬼鮫 ー裏ー

「それに私はしぶといのですよ。もしかして私のような子が産まれて来るかも知れないとなったら、ますますしぶとくなりますよ。産まれて来て良かったと思える手助けをしなくてはなりませんからね」

「大事な事を忘れていますね」

鬼鮫が牡蠣殻の手を掴んだ。

「あなたは勝手に死ねないんですよ。何時になったらわかるんです。断りもなく死にでもしたらどうなるかくらい想像がつきませんか？二度三度死にたいんですかね、あなたは」

「死にませんよ。大丈夫です」

「…大丈夫ねえ…」

牡蠣殻の中でまだ怒張しているものをぐっと押し付けて、鬼鮫は顔をしかめた牡蠣殻に歯を剥いて笑って見せる。

「大体何時事がすんだと言いました？勘違いしてますよ」

「は？」

「始まったばかりだというのに」

「…何やら食い違いが生じているようですね」

「やっと温まって来たところで止めてしまっては意味がないでしょう」

「意味の意味がわかりません。乞うご期待で以下次号じゃないんですか」

「あなた相手じゃ何時休載になるか知れませんからね。出来る事は出来るうちにやっておかないと」

「休載なんかしませんよ。絶賛連載中です」

「何度も大穴を空けてるでしょう？忘れましたか？」

「？そう言われればそう言えなくもない真似をしたような気もします」

「…最悪ですね」

「最高に悪い？最低に悪い？」

「引っ掛かりませんよ。また煙に巻くつもりでしょう。全く磯の人間は仕様もない…」

両の手を牡蠣殻の頭の脇について見下ろすと、牡蠣殻がブッと噴き出した。

「…今度は何です」

「いや、こう見ると矢っ張り干柿さんは色々尋常じゃないなと思って」

「何を言ってるんですか、あなたは。削り消しますよ」

「削り消されたらもうこんな事出来なくなりますね」

「おや、満更でもないという事ですか？これは意外だ。やる気がなくなりますねえ…」

「体がないと出来ない事は体が無くなってしまったら出来ませんから。しかし干柿さんのやる気の源は一体どうなってるんです。女性にとったら災難の塊ですよ、貴方は」

「私の嗜好に口出しは無用です。また黙らせて欲しいんですか？」

言い返そうとした牡蠣殻が赤くなった。
鬼鮫は牡蠣殻の黒い目をじっと覗き込む。