第14章 磯辺に鬼鮫 ー裏ー
牡蠣殻が強く匂う。
鬼鮫のものが限界まで膨れ上がった。
「…くッ」
引き抜こうとした瞬間、牡蠣殻が鬼鮫の腰を押さえつけた。
驚いて顔を上げた鬼鮫と牡蠣殻の目が合う。泣き出しそうな眉間のシワが甘い。押し返されたものに擦られて声を出さずに喘いでいる。
「…この…ッ馬鹿が…ッ」
食い縛った歯の間から罵倒を洩らし、言葉とは裏腹に牡蠣殻へ噛み付くような口吻をして鬼鮫が迸った。
「あ…ッ」
膣に溢れたものに牡蠣殻が高い声を上げて腰を浮かせた。果てて尚硬い鬼鮫が根本から先端までぐうっと吸い込まれるように引き絞られる。
「……ッ」
鬼鮫が牡蠣殻の中で蠢いた。牡蠣殻の足が鬼鮫の脇を掠めて敷布を掻く。
「……は…あ、ぁ…」
息を吐いて脱力した牡蠣殻の顎に鬼鮫の手がかかった。
「何のつもりです」
「…目合いを終えたつもりですが…」
「ほう。余裕ですね」
「…そうですか?」
「あなた、子供が欲しいんですか」
鬼鮫の言葉に牡蠣殻は訝しむように目を眇めた。
「…何故そんな事を訊くんです…」
「…あなたまさかどうすれば子供が出来るか知らないんじゃないでしょうね?」
「馬鹿にしないで下さい」
「ならどうしてあんな真似を…」
「目合えば子供が出来るかも知れないのは自然な事です。だから凄く好きな人と交わるのでしょう?」
「……牡蠣殻さん」
「あれ…?違うんですか?また何かやらかしましたかね、私」
「薬がなければ血の止まらないあなたが出産する。これがどういう事か解ってますか」
顎を掴む手に力を入れて鬼鮫は牡蠣殻をじっと見た。牡蠣殻は笑って鬼鮫の手を握り締めた。
「元より出産は大変な事ですが、あなたには重ねて枷がある」
眉をひそめて鬼鮫は続ける。
「もしもの事があればあなたの不在は子供にも子供の父親にも様々な意味で長く伸し掛かる重圧になるでしょう。更に言えばあなたの子供はあなたと同じ血を持って産まれて来るかも知れない」
「干柿さん、私は本当に私が私で良かったと思えるようになりました。これは幸せな事です。肌を合わせたいと思える人と巡り会えて良かった。これも幸せな事です。この先同じ気持ちを持てる相手と巡り会えるかどうかわからないし、常に次があるとも限らないから、その都度一度きりの事と思って大事にしたい」
牡蠣殻は鬼鮫の眉間の皺を撫でて笑った。