第14章 磯辺に鬼鮫 ー裏ー
「…あの…話がよく見えないんですが、何ですか?生殺与奪欲が高じて心中願望でも芽生えちゃったんですか?腹の上でも下でも素っ裸で死ぬなんて私は絶対に嫌ですよ。ただでさえ美しくも儚くもない貴方と私でそんな事になったら目も当てられません。後始末する人の身にもならなければ……」
「……あなた、本当に口が減りませんねえ…」
「いよいよ萎えました?」
「この程度で萎えていたらあなたとはいられません。何度言わせるんですか」
牡蠣殻の足に手をかけて膝を立たせる。
「黙らせる事はいつでも出来ますからね。知りませんでしたか?」
「へえ?何で今までやらなかったんです」
素直に膝を立てたまま、牡蠣殻は驚いて不思議そうに鬼鮫を見た。
鬼鮫は脚衣を脱いで掛布を引き上げ、牡蠣殻を見返す。
「いいんですか?時と場所を選ばず黙らせても?」
「時と場所を選ぶ必要がある?」
「やり方は色々ありますからね。私は構いませんよ、何時でも、何処でも」
「……胡乱ですねぇ…」
話しているうちに牡蠣殻の赤みが褪めて来た。
こんなに会話が多くて間の入る濡れ場は初めてだ。
鬼鮫は苦笑いして牡蠣殻の額にかかった長い髪を掻き上げる。
「事がすんだら少しはしおらしくなりますかね?」
「さあ、わかりません。どうなんでしょう」
太腿の内側に手を這わせて再び牡蠣殻の上にのしかかりながら、鬼鮫は黒髪の下の薄い耳朶に口を寄せた。
「全くどうにも口が減らない」
「そうですか?でも正直、わからないものはわからない…」
「いよいよ黙らせましょうかね」
太腿の手が這い上がる。
「死ぬ様な思いに必ずしも痛みや辛さが伴うとは限らない」
ひたりと足の付け根近くで手を止めて、鬼鮫は牡蠣殻の目を覗き込んだ。
「…いや、この言い方は正確ではありませんね」
牡蠣殻は鬼鮫の目を見返しながら落ち着きなく上に体をずらした。足の付け根にある鬼鮫の手が気になるのだろう。膝を伸ばして鬼鮫を退けようとする仕草を見せた。
「牡蠣殻さん。気持ち良すぎて痛みを感じた経験は?」
膝裏に手を差し入れて抱えるように片膝を立たせ、口角を上げた鬼鮫に牡蠣殻は難しい顔をした。
「美味しすぎて頬が痛くなるとか、嬉しすぎて鼻が垂れるとか、そういう事ですか?」