第14章 磯辺に鬼鮫 ー裏ー
思いがけず、牡蠣殻が声を上げる。感極まったというより、驚いたような声だ。
「噛まれるとは思っても、吸われるとは思いませんでしたか?」
痣を指の腹で撫で、また首筋に歯を立てる。
血が滲んだ。
「大丈夫ですよ。今ならさっき呑んだばかりの薬がこの血を止めてくれるでしょう。この先は保証出来ませんが」
「干柿さん…、それは…駄目です」
傷口から鬼鮫の顔を引き剥がそうとしながら、牡蠣殻は苦しげだ。鬼鮫の手が乳首を指の間に挟んだまま緩急をつけて小さな乳房を揉み解しているから、それが牡蠣殻の息を上げている。
「今の私に傷はありませんよ」
血と血の接触がなければ、牡蠣殻の血の影響を受ける事はない。
「あなたが私に傷をつけない限りは」
「私はそんな事…」
「そうですね。多分貴方はしないでしょう」
牡蠣殻の両手を難なく片手で捉え頭上に押さえつけると、鬼鮫は傷口の血を舐めとった。
「ちょ…、干柿さんッ」
「鮫は目合うとき、相手を噛むんですよ」
揉み解す手はそのままに、もう一方の胸に口をつける。
牡蠣殻が押さえつけられた手を解こうと藻掻く。鬼鮫は微動だにせず、顔を上げて牡蠣殻を見た。
「知りませんでしたか?」
口角を上げた鬼鮫に牡蠣殻は諦めたように目を眇める。
「貴方本当に鮫だったんですか」
「さあどうでしょうね」
素っ気なく流して鬼鮫は再び牡蠣殻の胸に唇を載せた。
痣が消えて行く。傷口に血が滲まなくなった。
代わりに牡蠣殻の耳朶が、頬が、指先が、赤く色付き出した。昂って血の巡りがよくなっているのだろう。これも質に関係あるのかどうか、兎に角著しく赤い。
「…ぅく…」
焦らす事はしない。乳首を舌でねぶりながら、鬼鮫は指の間に挟んだもう一方の乳首を捻り上げた。
「う」
牡蠣殻が身を竦める。呼応して鬼鮫の息が荒くなる。
眉間の皺が痛みに因るものなのか快楽に因るものなのか定かではない。
どちらでも良かった。
牡蠣殻が自分を感じているのならば。
冷静でいたい。牡蠣殻がどう反応するか、全て見届けたいから。けれど熱い。収まりをつけたい己が猛っていた。
唾液が湧く。乳首を嬲る口元から淫らな音が滴って静かな部屋を湿らせている。
牡蠣殻が腰を捩り始めた。
捻られた痛みより嬲られる心地よさが勝ったのか。
持ち上がった腰が猛りの中心に触れた。