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連れ立って歩く 其の四 和合編 ー干柿鬼鮫ー

第14章 磯辺に鬼鮫 ー裏ー


禁忌を犯してまで牡蠣殻を書き残した深水の薬師としての拘りや誇り。専門知識を持たない鬼鮫が幾ら熟読しようが活かしきれないあの書付を誰かに託すべきだろうか。あれは必ず牡蠣殻の助けになる。

今の牡蠣殻を誰なら救える?

牡蠣殻が託した血と薬の行き先が頭を掠めた。
砂と音。

磯の民が居り、医療忍術に長けた木の葉。

サソリ。暁。

荒浜。草。

いや、もうひとり。

同じく深水の書付を持ち、鬼鮫より長く牡蠣殻と身近く居た本草の里の影。

浮輪波平。

未だかつてなく柔らかく近しく、張り詰めた気配なく身を委ねる牡蠣殻を組み敷いた今、鬼鮫はあの男の事など考えたくもなかった。

牡蠣殻を抱き締める。牡蠣殻の手が着衣の裾を潜って鬼鮫の肌を撫でた。

色気なしの艶めかしい動きに寸の間息が止まった。

牡蠣殻の傷を舐めながら、牡蠣殻が捲った着衣を片手で脱ぎ捨てる。肌と肌が触れ合って、牡蠣殻の薄い胸が大きく上下した。
忙しいのに呼吸が不思議と深い。胸が広がる心地がして更に滾る。互いに感じ合っているのがわかるから、増して。

高ぶった衝動のまま胸の先に噛み付くと、牡蠣殻が寝台に沈み込むように身を引いた。

こうも肉の薄い胸の女と交わるのは初めてだ。心任せに嬲っていいものか力加減に迷う。
牡蠣殻の止まらぬ血を思えば注意を払わざるを得ないところでもある。

鬼鮫は手に握ったままの薬包を噛み切って中身を口に含んだ。口中に広がる薬の匂いと微かに舌を刺す鉄の味。
この薬には牡蠣殻の血が入っている。
呑み込みたくなるのを堪え小卓から水呑みを取って煽ると、牡蠣殻に口移しに呑み込ませる。

「事を終えるまで次はありませんよ。少なくとも泣くのは止めなさい」

見上げる牡蠣殻の口元から首筋に含みきれなかった水が色のない線を引いた。

「零れてますよ、牡蠣殻さん。しっかり呑みなさい。これがなければあなたはてんで呆気なく」

死ぬのだから。

「ああ、すいませ……」

言いかけて濡れた肌を拭おうとした牡蠣殻の手を掴み、薬の匂う水を舐めとる。
呑み込んだ薬と牡蠣殻の血。

首筋の肌の下に張るしなやかな筋肉に歯を立て、きつく吸い上げると牡蠣殻が吐息の悲鳴を上げた。
すぐに消さなければならない印。今の薬で治まるだろう痣。
吸い上げて痛め付けた肌を舌で強くねぶる。

「う…ッ」
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