第14章 磯辺に鬼鮫 ー裏ー
「……」
鬼鮫の愛撫に牡蠣殻が息を吐いて顔を背けた。
長い黒髪が揺れて煙草と松明花がまた匂う。
まだ僅かに震えているが、もう喉は鳴っていない。
鬼鮫は牡蠣殻を抱え上げて寝台に向かった。牡蠣殻の体が温かい。
鬼鮫が熾した熱だ。
何かが弾けそうな心地になる。欲なのか情なのか、或いはどちらもなのか俄かに判じかねる。
掛布を剥いで横たえた牡蠣殻の寝着の裾が乱れ、ほっそりと引き締まった足が目を引く。
帯を解いて、単衣を左右に開いた。
牡蠣殻の肌が目新しい。何時も何時も着衣の下に潜んで見る事のなかった直肌と、その露な輪郭が。
鬼鮫は紅い雲の飛ぶ外套を脱いで、寝台脇の椅子の背にバサリと投げ掛けた。
身を起こした牡蠣殻に覆い被さって押し倒し、乾いた唇をまた貪る。その苦さが甘い。湧き上がる唾液に濡れて柔くなる唇の感触が快い。
ふと牡蠣殻の口が開いて、薄い舌が躊躇いがちに鬼鮫の舌に触れた。
一瞬、腰が引けた。次いで何かがずしりと来た。
愛しい。
いや、違う。馬鹿馬鹿しい。
愛や恋などあるかないかすら真実解らないもの、鬼鮫にしてみればこの世の何処にも無いもの。そんな移ろい易いものに心を寄せるのは愚かな事だ。
下手な動きで絡んで来る舌に手足の先がビリビリと痺れる。敢えて答えず、するに任せる。
上手くない。
だが、どうしようもなく滾る。牡蠣殻がぎこちなく、辿々しく鬼鮫を探っている。
愛しい。
馬鹿な。
息苦しいような感情の昂りに鬼鮫は動揺した。
私は一体何を……。
私が見付けた私の獲物。生殺与奪を握る相手。
確かに振り回されている。気にもかけている。当然だ。自分の持ち物に気を配るのは当たり前の事、言ってみれば牡蠣殻は鮫肌のようなものなのだ。
鮫肌を愛しいかと言って、それは違う。我から求めて手に入れた、今の鬼鮫に欠くべからざる鮫肌だが、これは所詮所有物に過ぎない。
牡蠣殻も同様。
いや、違う。
胸が広がるような心地、胸が締まる息苦しさ、怒りや苛立ち、その全てから腹に湧く滾り。
愛しさ。
愚かな。
一体私は何を考えているのか。
そんな鬼鮫から何を感じたのか、牡蠣殻が身を引いた。その頭を両手で捕まえてまた口を割り、深く舌を差し入れて引き千切らんばかりに絡み付き、口腔を凌辱する。