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連れ立って歩く 其の四 和合編 ー干柿鬼鮫ー

第14章 磯辺に鬼鮫 ー裏ー



「まだ眼鏡を誂えてないんですか」

顎に傷を負った時に割れた眼鏡は、まだ牡蠣殻の顔に戻っていない。未だ貼り付いている膏薬を見るに傷は未だ癒えきらぬままのようだ。

「目が良くなった訳ではでしょう?相変わらずの眉間の皺を見れば」

今も刻まれている皺に指先で触れて、鬼鮫は牡蠣殻の目を覗き込んだ。

「明日買いに出ましょう。あなたと町を歩くのは二度目ですか。一度目は木の葉…」

「砂の夜道で二度」

牡蠣殻がポツンと言った。

「ああ。では三度目ですね」

俯いた牡蠣殻を見下ろして、鬼鮫は目顔で頷いた。

「そう言えばそうでしたね」

「あの時も貴方は怒っていましたね」

牡蠣殻が顔を上げた。

「いつも貴方は怒っている」

「まあそうですかね。あなたと居ると何故かそうなる」

「初めからそうでした」

鬼鮫は牡蠣殻の顎に手をかけた。

「あなたが私に気付かなかったのが悪いんですよ」

「いいえ。私などに気を取られたりした貴方が悪いんです。見過ごせば良かったものを」

「何を今更」

鬼鮫は凄いような顔で笑って牡蠣殻の胸倉を掴み上げた。小面憎い牡蠣殻を壁へ叩き付けるように押し付ける。

「人を食ったような物言いは初見から全く変わりませんね」

襟元を捻って絞め上げた手に力が入った。

「私が何を気に留めようと誰にも口出しはさせません」

それが当の牡蠣殻であろうとも。

「何です。私の拘りが下らないとでも言いたいんですか?」

「物に依るんじゃないですかねえ」

絞め上げられながらしかめ面で言った牡蠣殻に鬼鮫は眉根を寄せた。

「つくづく腹立たしい人ですよ、あなたは。言う事為す事、兎に角苛立たしい」

「…それは…ごめんなさい?」

「…何で半疑問なんです」

「心当たりには本気で謝りたいと思いますが、思い当たらない分は謝っても意味がないから?どうなんでしょう?」

「知りませんよ、そんな事。第一聞いているのは私ですよ?あなたは答える側でしょう」

「わかりました。考えてみます」

「後にしなさい」

話しながらごく自然に八ツ口から手を差し入れて肌に触れる。
息を吐いたのか吸ったのか、牡蠣殻が体を引き攣らせてひゅっと妙な音を出した。
背中に粟を立てる様がそそる。
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