第2章 木の葉
女が目を覚ますのは早かった。
寝台に横たえた瞬間パチリと意識を取り戻し、確認するように辺りに目を走らせた。
「磯辺、呑みや」
爺が薄緑色の薬包を水と一緒に与えると、素直に呑んで目を閉じる。
が、さして時の経たぬうちにまた目を開け、再び混濁したかと思えばハッと目覚める。うつらうつらと傍目にも休まりそうにない。
これでは疲れる一方だろう。手当ての仕様もない。何せ当の本人が他人に診せる事をキッパリ拒絶しているのだ。
「薬を呑んで寝ていれば治ります」
この一点張りで血染めの衣裳もそのまま、赤い膏薬すら替えさせずにまた目を閉じる。滲んで垂れる血が見当たる訳でないところを見れば出血は止まったようだが、それにしても…。
自来也は苦り切って頭を掻いた。
いっそ意識を失ったままでいてくれれば扱い易いのだが。
それこそ薬を使うか。
荷の中の薬袋にある幾包かの眠剤の事をチラリと考えると、また女と目が合った。
見透かしたような笑みが女の口端に力無く浮かぶ。
「私に普通の薬は効きません。そういう質なのです」
…そういう質?
一拍おいて自来也は難しい顔をつくった。
「そら面倒だな。大変だろうがよ、特に今みてぇな場合には」
「付き合いの長い質ですから、私にすれば当たり前の事。慣れているのでご心配なく」
苦笑いする女に、先程の異様な気配は感じられない。困ったようなちょっと引いた笑い顔にも気持ちを逆撫でるような気色がない。柳の葉のように笑うと形を変える隈の浮いた目も、黒炭の禍々しさを拭い去ってただ疲れている。
「…それよりここは何処でしょう。頭がぼんやりして見当がつかないのですが…」
心許なげに問う女に自来也は穏やかに答えた。
「木の葉の里と言ってわかるか?」
女は目を瞬かせた。しばし思案するように天井を見上げ、息をつく。
「…木の葉ですか。では貴方達は木の葉の?」
「里のモンよ」
「そうですか。…では奈良くんをご存知でしょうね?」
「シカマル?シカマルなら俺はのダチだってばよ!何だ、シカマルの知りあいか?早く言えよ!」
ナルトがビックリして、それから嬉しそうに手を打った。
「呼んで来てやるよ!」
「待て待て待て」
走り出そうとしたナルトの襟をすかさず自来也がひっ掴んだ。
「焦んじゃねェわ。落ち着け」