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連れ立って歩く 其の四 和合編 ー干柿鬼鮫ー

第13章 一方その頃波平は…


「…それとこれとは話が違う」

「磯辺に会いたいのだろう。これは取り引きだ」

「随分取り引きを勧めてくるな。俺はもともと取り引きなど上手くない」

「甘えた事を。弁えろ」

これは磯影への叱責。

「半端をするなら磯辺は諦めろ」

これは波平への叱責。

「……」

「全て一手に引き受ける必要はない。大国に頼れ。今のお前ならそうした手も打てよう」

「…さあ、どうかな…」

木の葉、砂。
こちらの利は高いが、あちらからすれば磯など鼻息で吹っ飛ぶような些細なものではないか。沈思しかけた波平を海士仁が乱す。

「鮫は磯辺を好いている」

話が飛んだ。磯の者はよくよく話し辛いが、海士仁はまた別格だ。しかも人の痛いところを平気で突く。

「磯辺も鮫を好いている」

「それが何だ。私も磯辺を好いている。…磯辺も私を嫌ってはいない…」

「……」

「…何だその見た事もない悲しげな顔は。気の毒そうに見るのは止めろ。ぶん殴るぞ」

「似た匂い」

「止せ。お前と私は違う。違うぞ」

「お前も独りが似合う」

「いや、ホンット止せって。洒落にならん」

「抗うのもまた良し」

「厭な物言いだ。不愉快な」

「ふ」

「一平を引き受けたならお前はここから独りで行くのか」

「是」

「引き受けぬと言えば?」

「連れて行く」

「ならば…」

海士仁は首を振って笑った。

「迷うくらいなら引き受けてくれ」

「……」

「一平は何時何処でも場違いな者にはならぬ方が良い」

「一平にはお前が父親、姉さんが母親だ。それを…」

「否。草には置かぬ。一平は失せる技を身につけるべきだ。浮輪の杏可也と深水師の子なら功者になるかも知れぬ」

「いや、それは身につけるも何も…」

「草に居ては失せ方を覚えぬ」

「覚えたり身につけたりするものではないだろう?」

「当たり前すぎるからそう思う」

鼻を鳴らして海士仁は一平のお包みの襟元を直した。夜更けてますます冷えてきた。

「お前は磯辺が藻裾に失せ方を仕込んだのを知らないのか」

またも思いがけない事を言われて波平は固まった。

「何だ、それは」

「呑気者」

海士仁が皮肉を匂わすでもなくサラッと言って、また波平を抉る。

「姉の杏可也が不失だというのに、同じく不失になりかけていた藻裾に目は向かなかったか」
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