第13章 一方その頃波平は…
確かに海士仁を育て上げた父親は、海士仁に輪をかけた変わり者だった。人も動物も植物も全ていっしょくたに見ているような節があり、不遜というのとはまた別の感じで人を人とも思わぬところが伺えた。
「俺のように育てたくない」
至極真顔で言う海士仁に困惑する。
「不便」
「そうだな。周りも不便しているぞ」
「知っている」
「知っていたのか。驚いた。なら直せないものか」
「努めた」
「それで?」
「戻った」
「・・・そうか。戻っちゃったのか・・・」
「そう」
「そうじゃないだろ。付き合いづらい奴だな・・・」
「付き合ってたのか」
言われて詰まる。
「・・・仕方ないだろう。お前もまた同門の徒なのだから」
渋々、渋々言って、波平は我ながらに驚いた。そういう気持ちが確かにあり続けていた事が慮外、何処かで同志という思いを持ち続けていた甘さに、脱力する思いがした。
何処まで行っても私という男は・・・
暗然と顔を曇らせる波平を海士仁がフッと笑う。
「良い」
「何が」
イラッとして見れば、海士仁は穏やかな表情で一平を揺らしていた。
「そういうところがいい」
馴れた仕種に何だかんだと矢張り親なのだと感心しながら顔をしかめる。
「だから何がいいんだ。お前はせめて主語を使うべきだぞ。それだけで通訳が要らなくなる」
「要らぬ」
「お前は要らぬでも周りには要る」
「察しの悪い」
「そういう範疇を越えているから色々言われる。少しは考えろ、馬鹿者が」
「馬鹿か」
「馬鹿だ」
「悪くない」
「・・・は?」
「お前や磯辺や藻裾にそう言われると何となしに悪くなく思う。何故だ」
「・・・この馬鹿・・・」
お前なぞ嫌いだ。昔から私より何をするにも秀でていたし、変な顔をして妙に人にモテた。
磯辺を襲い、姉を拐い、先生を殺めた。
嫌いだ。大嫌いだ。
この大馬鹿が。何故もっと巧く生きられないのだ。器用貧乏な俺より更に何でも出来るくせに。
馬鹿。何でだ。
何で俺が泣きかけなけりゃならないんだ。
「うん。馬鹿か」
頷いて、海士仁はスルッと首の傷痕を撫でた。
「そうだな」
暗がりを縫って顔岩を仰ぎ、一平を今一度そっと揺すり、波平に目を移す。
「これを頼む」
「・・・は?」
海士仁の馬鹿が一平を突き出してよこした。
何だ、何の真似だ。