第13章 一方その頃波平は…
「俺は師殺しを皮切りに幾つも禁忌を犯した」
海士仁の告解に波平は反応を返さなかった。
禁忌?それ以前にも貴様は磯辺を襲っているだろう?あれから磯辺はますます他から遠くなった。その距離を、私は埋めてやれなかった。
自分にも海士仁にも腹が立つ。もうずっと、腹を立て続けている。
今更海士仁に何か言ってやる筋合いはない。そんな本音を隠すつもりもない。そうしたところで起きてしまった事は変わらぬし、己の不甲斐なさは募るばかりではあるけれども。
そうした情けない無言の抗議に海士仁は何故か好ましげに笑った。
この状況ではいっそ気味が悪い笑顔にこめかみが痛んだ。こいつの訳の分からなさは昔からだ。変わらないと思った瞬間、海士仁が口を開いた。
「変わらぬ」
こっちの台詞だ、うつけ者め。
「相変わらず得手勝手だな。羨ましくすらある」
「羨ましい…?そうか」
大きな口でにんまり笑う海士仁に腹が煮える。
「お前、親になっても変わらないのだな」
この一言に、海士仁は不思議な顔をした。何処か痛そうなのに傲慢、悲しげでやさしいが、皮肉な顔。
コイツがこんな微妙な顔をするのかと波平は毒気を抜かれた。そしてそれを見て取った自分にも驚く。こうも人の心の動きを見て取れるとは。この昼行灯が?影としての経験が視界を拡げたか、相手が他ならぬ海士仁だからか。
片手で一平を抱え、残る片手を腰に据え、海士仁は左の口辺をぐっと上げた。顎を上げてこちらを見下ろす腹立たしい顔の下、首に刻まれた師殺しの痕が生々しい。最期に深水師が刻んだ傷だ。
目を背けまいと奥歯を噛んだとき、海士仁がポツリと言った。
「真綿に包まれた雛」
「一平・・・いや、私の事か?」
「是、姉弟共々」
「皮肉を言いに来たか。悠長な」
「否」
海士仁は腕の中の子を見下ろして目を眇めた。
「お前は守られて育ったのだから守り方を知っていよう」
「何の話だ」
「俺は、知らぬから」
苦笑いして海士仁が一平をあやす。
「愛されていなかったとは思わぬが」
何を言い出すと眉をひそめた波平に一平を差し出す。
「人並みに過ごさなかったように思う」
「・・・・・・」