第13章 一方その頃波平は…
だからと言って磯影である自分は牡蠣殻に限らずそうした者を消し去ろうとは思わない。
どちらが正しいというものではない。それぞれの形があり、それぞれの在り方がある。大国は苦労が多い。磯のような小里には計りきれない政の形があるのだ。木の葉に磯が計りきれないのと同じように。
「牡蠣殻を消す気はない」
綱手は扉戸に預けた体を起こして腕組みした。
「自来也に聞いたが、もう首狩りが出ているらしいな」
「牡蠣殻は腕が立ちはしませんが簡単には捕まりませんよ。アレは功者なのですから逃げ隠れはお手の物、どんな腕自慢でも失せられては仕留めようがありますまい。追い方の数に頼んで失せ続けさせ、疲弊させるのが一番でしょう。疲れれば失せられなくなる」
もしくは病ませる事だ。いずれ弱れば功者と言えど失せるのは困難になる。磯の者を追うならばこれは定石。
草はそういう事情をよくわかっている。
何しろあそこには今、長く磯の中枢を担っていた杏可也と長老連がいるのだから。
賞金稼ぎが早く湧いても不思議はない。
ビンゴブックにブッカーを載せた者が賞金稼ぎを募るのもまた定石。あちらこちらと定石に添って功者を追い詰める。
杏可也自身が草で語った筋書きの、次も予測がつく気がした。
暁に牡蠣殻拿捕の依頼が舞い込むのではないか。牡蠣殻と互いに執着し合う干柿鬼鮫の居る暁へ、あの鮫のジレンマを誘う為に。
小面憎い干柿の動揺する様を窺う。計算高い杏可也は、人心を弄びたがる節がある。本人はそれを"試す"というが、人の翻弄される隙を突くのも彼女の得意だ。悪気がないから尚辟易させられる浮輪杏可也という女。腹違いの波平の姉。
外面が良くて猫被り、賢く里思いで家族思いの姉。
「牡蠣殻は弱っている。何処か頼りのあるところへ失せたのでしょうが、それも上手くいったかどうか」
牡蠣殻がやっと休めると目指した場所を考える。
たまさか煙草を求めに顔を出している親元か、砂を頼ったか、まさか大蛇丸のところとは考え辛いが今あそこには何故か藻裾が居る。ないとは言い切れない。
だが一番すんなり落ちるのは、暁。
干柿鬼鮫の元へ向かったのではないか。
「いずれにせよ、早く見つけ出して匿いたい。行き倒れは言うまでもないですし、何処へ失せたか知れませんがそこが良い隠れ場だとは……限らない…」