第12章 薬師カブト
「お久し振りですね、サソリさん」
平然と笑みを浮かべたカブトにサソリは眉をひそめる。
カブトは牡蠣殻の横たわる寝台の傍らに椅子を据えて腰掛けている。しようと思えば何でも出来る距離に陣取って、牡蠣殻とサソリの間に居る。
剣呑だ。常ならば牡蠣殻がどうなろうと知った事ではないが、ここまで手掛けた案件を横から安易に潰されるのは面白くない。サソリはカブト、ひいては大蛇丸の為に面倒を推して牡蠣殻の拾い上げたのではないのだ。
「…呼んでもねぇのに何の用だ?留守中に縄張りに踏み込まれて喜ぶ俺と思ったか」
「まさか。留守中に家に入り込まれて喜ぶ人なんかいないでしょう」
のうのうと答えるカブトに、サソリは眉間にシワを寄せた。
「何のつもりだ」
「何のつもりって、手助けに来たんですよ、勿論」
カブトは肩を竦めて立ち上がった。懐に手を入れたのを見てピクリと眉を上げるサソリへ飽くまで穏やかな笑みを向ける。
「厭だなぁ。信用して下さいよ、サソリさん。僕はあなたの抱えたお荷物を少しでも軽くしてあげたいと思って来たんですから」
「用がありゃあこっちから呼ぶ。勝手に面ァ見せんじゃねえ」
にべも無いサソリがあまりに予期した通りの反応を見せるので、カブトの笑みが苦くなった。どうもこの男は付き合い辛い。笑いながら、睡る牡蠣殻を見下ろす。
久方振りに見るが相変わらず貧相。傷が増えて更に見苦しくなっているのが憐れだ。目に見える態も大概だが、目に見えぬ態、体の中は更にどうなっているのか興味深い。
「物欲しそうに見てんじゃねぞ。今ンとこソイツは誰にくれてやる気もねえ」
「今のところ…?と言う事は何れは仲間の誼で干柿さんに引き合わせるんですか」
敢えて邪気なく言うと、サソリは案の定面白くもなさそうな顔をした。
「仲間の誼?下らねえ」
そうだろうとも。それでなくては困る。
カブトは毒にも薬にもならなさそうな安穏とした表情を顔に貼り付け、懐から手を抜いた。その指先に白い薬包。
「草の薬です。こう言えばあなたにはすぐにわかるだろうと思いますが」
「…ふん」
突き放す一方だったサソリの目に好奇の色が兆す。カブトはにっこりしてサソリと牡蠣殻を見比べた。
「色々調べたいんでしょう?この牡蠣殻を使って」
「だから何だ?大蛇丸に言い遣って嗅ぎ回りにきたのかよ」