第2章 日常に融けゆく
そんな事件もあって、それ以降先輩達に突っかかられる事は無くなった。そして、同級生達から、住んでる世界が違うと線を引かれてしまう出来事となった。
それ以降、個性の使い方には気を付けていたつもりだった。戦闘訓練でも、相手の気を失わせるような力の使い方はしてなかったのに、爆豪くんがあまりにも元気がいいもんだからついうっかり。ついだとか、うっかりだとかそんな言い訳通用しないけど。
「ごめんね、爆豪くん。」
未だに意識の覚めない爆豪くんに謝罪の言葉を述べた。
「謝ってんじゃねえ!」
突然ベッドから起き上がるなり声を荒げる爆豪くんに心底驚いた。気絶したばかりだというのに元気が良すぎやしないか。でも、その元気な姿を見て安堵した。先程までの可愛い寝顔はどこへやら。眉間に皺をよせ、いつも通り険しい表情。
「クソが!」
掛けられた布団を私の方に投げ捨て、上履きを履き、カーテンを開け保健室から出て行こうとする爆豪くん。彼はいつも怒っている。いつも不機嫌そうで。
リカバリーガールが爆豪くんに声を掛けるが、うるせえと声を荒らげた。乱暴に扉を開け、ガシャンと音を立てて開く扉。振り返った爆豪くんと目が合った。
「放課後ぶっ殺してやるから覚悟しとけよクソ女。」
そう言って爆豪くんは保健室を出て行った。
「嫌だね。最近の若い子は。言葉遣いがなっちゃいないよ。」
そう言ったリカバリーガールと目が合った。
「日菜子ちゃん、嬉しそうだね。」
「え?」
「久しぶりに見たよ、そんな顔。」
私は、笑っていた。いや、笑う事が珍しいとかそんな訳じゃない。何故か不思議と湧き上がるワクワク感。雄英に入学した日と同じ。どんなヒーローの卵がいるのか、どんな授業があるのかと期待に胸を寄せたあの気持ちと同じ。
「なんか、私、楽しいのかも。」
私にライバル心を向ける爆豪くんの存在が、私の心を弾ませる。プロにでもならない限りこの気持ちを味わう日はこないと思っていたのに。
『なんか楽しくなってきたね。』
先日、アキちゃんにそう言った自分の言葉を思い出した。