第4章 退屈な日常
「維兄、遊びに来たよー。」
そう言ってジーニアスヒーロー事務所の扉を開けると、そこにいたのは会いたくて堪らなかった爆豪…くん?いや、違う。爆豪くんの髪は爆発したような頭で八・二分けじゃないし、ジーンズなんか履く訳ない。
「…ヤバい、爆豪くんの幻覚が見える。」
「幻覚ってどういう事だコラ!」
そう叫んだ彼の髪はボンッと広がった。
「え?本物?なんで爆豪くんがジーニアスにいんの?」
「それはこっちの台詞だ!なんでクソ女が…!」
三日ぶりに会う爆豪くん。なんだか凄く久しぶりに会うような気がして、嬉しくて堪らなかった私は爆豪くんの頭を撫でると、案の定その手を叩かれた。
「なんだ日菜子、平日に来るなんて珍しいな。」
「維兄。」
維兄はそう言って私の頭を撫でた。
「爆豪くんいたからビックリした。維兄指名したんだね?」
「彼のような凶暴な人間を〝矯正〟するのが私のヒーロー活動だ。」
以前、日菜子のようなだらけた人間を矯正するのが私のヒーロー活動と言われたのを思い出した。そういえば、私も一年生の時の職場体験はジーニアスだったな。初めての職場体験だったし、知り合いの所がいいかなあ、なんて軽い理由でジーニアスを選んだのを職場体験初日で後悔した。
「ほら、維兄。爆豪くん早速髪型乱れてるよ。」
そう言って爆豪くんを指さすと爆豪くんを椅子に座らせ、ポケットから取り出した整髪剤と櫛で爆豪くんの髪型を再び八・二分けにセットした。
「ふふ、爆豪くん、似合ってるよ。」
そう言うと怒った爆豪くんの髪は再び爆発し、元通りに。それをまた維兄がセットし直す。
「爆豪くん、ジーニアスに職場体験だったんだね。また遊びに来る。」
「なんだ、もう帰るのか?」
「うん。また明日来る。明後日も明明後日も。」
そしたら爆豪くんに会えるしね。
「じゃあ爆豪くん、頑張ってね。」
ここに来るまでは退屈でつまらなくて、足取りは重かった。けど、帰り道はそれが嘘みたいに軽かった。