第6章 爆豪くんのいない四日間
「…あのね、私、記憶が無いの。いきなり記憶が無いなんて言われても理由わかんないかもしれないけど、目が覚めたら病院のベッドの上だった。幼馴染みだっていう、爆豪くんや緑谷くんの事も覚えてなくて、私は空っぽだった。けど、空っぽな私の中に唯一残ってたのが〝ヒーローは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない。〟ただ、それだけで、自分でもどうしてそれに固執してるのか分からない。…分からないけど、私にとってそれは多分、凄く大切な事で…。それを曲げたら…お茶子ちゃんの考えを認めてしまったらいけないって思って、」
自分でもどうしてそんなにそのヒーロー像に固執しているのか分からないから上手く説明が出来ないのがもどかしい。
「けど、お茶子ちゃんの事嫌いになれないし、仲良くしたいって思ってる。また前みたいにお茶子ちゃんと笑って過ごしたいって思ってる。…矛盾してるよね。」
「記憶が無いって不安…だよね?ごめん。ウチ、そんな経験無いからなんて言うたらいいのか分からんけど、」
「急に変な事言ってごめんね。」
「ううん!ウチこそ、言い難い事言わせてごめん!」
「私、自分がどうして記憶が無いのか知るのが怖くて…。」
以前校長先生に、この記憶喪失がショックからよるものか、自分の個性によるものか定かで無いと言われた。記憶喪失の理由がどちらにせよ、両親の事件に加え、行方不明になっていた空白の時間。失われた記憶にいい思い出があるとは思えない。けど、前に進む為には、過去の私に何があったのか知る必要がある。
「けど、決めた。過去の自分を知らないとちゃんと前を向けない…。お茶子ちゃんとちゃんと友達になりたいから。」
過去の自分と向き合えば皆と向き合える。そう思った。いつまでもこのままじゃいけない。
「玲奈ちゃんが記憶があろうが無かろうが、ウチは玲奈ちゃんと友達になりたい…っていうか、友達だって思ってるんやけど、ダメかな?」
お茶子ちゃんの言葉はいつも私を救ってくれる。お茶子ちゃんの言葉にありがとうと返した事をこの先後悔する事になるなんてこの時は思いもしなかった。このまま何の変化も求めずにいればきっとお互いに傷つかずに済んだ。お茶子ちゃんと向き合えた事がただ嬉しかった。それだけだったのに。