第2章 正しき社会のために
黒いモヤに体を包まれ、目を開けるとそこは小さなバーだった。そして、目の前にはあの映像の男。体の至る所に人の腕のようなものをつけた気味の悪い男。その彼の異様な姿に思わずゾッとした。
「何、この餓鬼?」
「ヒーロー殺しの仲間ですよ。」
「へー…アイツに仲間なんていたんだ。」
ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべるその男に一瞬たじろいでしまったが、私は先程手にしていた刀を構え、彼に問いた。
「敵連合とはあなた達の事?ステインと一体どういう関係なの?ステインには私以外仲間なんていなかった。ステインの逮捕についてあなた達は何か知ってるの?答えて!」
戦闘経験の無い私が大人二人相手にどうにかなるなんて思ってはない。けど、私はステインとコイツらの関係を知らなければならない。
「黒霧、なんでコイツ連れてきた訳?」
「彼女の個性は我々敵連合に必要であると彼が仰ったからですよ。」
「どんな個性?」
席を立ち、私の方へ一歩一歩足を進めて来る彼。私は間合いをつめられないよう、一歩ずつ後ろへ下がった。────怖い。
「記憶操作。」
「へえ、面白そうな個性だ。」
笑みを浮かべたその不気味な男。コイツは危ない奴だ。私の全身がコイツは危ないと、逃げろと言っている。
ヒーローを目指し小学生から始めた格闘技、ステインに教えて貰った護身術や刀の扱い。戦闘向きでない個性を補う為にどれもこれも必死で学んだ。でも、それを実践する機会に恵まれなかった私は目の前のソイツに怯える事しか出来ず、身体の危険信号に足は反応を示してくれなかった。
目の前にいる彼に押し倒され、私は床に転がった。そんな私に馬乗りになる彼。それがあの日、ヒーローに犯された私の人生で最も最悪の記憶と重なった。
「いやあああ!やめて!いやあ!ステイン!ステイン!!」
これだから餓鬼は嫌いなんだよ、そう言って暴れる私の抵抗などまるで無意味かなように私のクビへと伸びてきた手。首を両手で絞められ、息苦しさと痛みにより私は意識を手放した。
どんなに叫んで助けを乞いたって、ステインはもういない。助けに来てくれない。私は本当に独りになってしまったのだ。