第5章 ヒーロー仮免許取得試験
建物の中に入ると、既に通過していた八百万さん達がいた。見知った顔ぶれに、緊張が漸く解けてきた気がした。けど、まだクラス全員がここにいるワケじゃない。
耳郎さんに上鳴が一緒だったから遅かったのかと声を掛けられた。
「違うの耳郎さん。私が皆の足引っ張っちゃって。」
「いや、橘のせいじゃないって。オイ耳郎!お前ちょっとそこなおれ!」
梅雨ちゃんがターゲットを外すキーの場所を教えてくれたので、ターゲットを外し、ボールバッグと共に返却棚に戻した。その時、じっとりと絡み付くような視線を感じ、振り返ると、士傑生が私を見つめていた。な…何?目が合うと、口元を緩め微笑んだ。
「橘玲奈。」
「え?」
私の名前を呼んだ彼女は笑った。すれ違いざまに彼女に言われた言葉に耳を疑った。
『迎えに行くからもう少し待ってて下さいね。』
迎えに行く?…私を?一体どういう意味…?
「…っ!待って下さい!」
その言葉に彼女は振り返ってくれなかった。
「どうした?」
「爆豪くん、あの人知ってる?」
もしかしたら、彼女も記憶を無くす前に面識のある人なのかもしれない。そう思って爆豪くんに尋ねたが、返ってきた答えは知らないという言葉だった。
「アイツがどうかした?」
「…ううん、何でもない。」
〝迎えに行くから〟…そう言われた事をただ何となく、直感的に誰にも伝えちゃいけない。そんな気がした。
『百人!!今埋まり!!終了!です!ッハー!!これより残念ながら脱落してしまった皆さんの撤収に移ります。』