第4章 欠落した記憶
「玲奈ちゃん、麗日さんと何かあったの?」
授業も終わり、寮へ戻り、いつものように爆豪くんに勉強を見てもらい、お風呂を済ませ、自室に戻ろうとすると、緑谷くんに声を掛けられた。
「えっと…麗日さんの事もそうだけど、物間くんにもキツい事言ってたし。僕が口出しする事じゃ無いかもしれないけど、雄英に来てから玲奈ちゃんなんか少し様子がおかしい…っていうか、その。いや、まあ、玲奈ちゃんも色々大変だったと思うし、きっと僕なんかが想像出来ないような辛い事もあったのかもしれない。」
様子がおかしいと言うのは、緑谷くんの知っている過去の私と、過去の記憶の無い今の私の違いからくるものだと思った。
「緑谷くん。私、記憶が無いの。だからね、緑谷くんの事も爆豪くんのお母さんから幼馴染みだって聞いただけで、緑谷くんの事も分からないの。ごめんなさい。」
そう言うと、驚いた表情を浮かべた緑谷くん。
「ショックで記憶を失ったのか、自分自身を守る為に個性を自分に使ったのかもわからないの。だから、緑谷くんの知ってる橘玲奈はもういないの。ごめんなさい。」
「玲奈ちゃんは玲奈ちゃんだよ!」
突然大きな声を出すから少しだけビックリした。
「あ…急に大きな声出してごめん。僕、玲奈ちゃんは死んだとばかり思ってたから、こうやってまた会う事が出来て本当に嬉しかったんだ。玲奈ちゃんは覚えてなくても、僕にとって玲奈ちゃんが大切な幼馴染みである事は変わらないから。」
「…うん、ありがとう。」
「かっちゃんはその事知ってるの?」
「うん。」
「そっか…。」
「ずっと言わなきゃと思ってたから話せて良かった。それじゃ。」
緑谷くんに記憶を失った事を言えなかった事が気掛かりだったから、言えて良かった。そして、緑谷くんは優しそうな見た目の通り、記憶の無い私にも優しい言葉を掛けてくれ、その事から本当に人柄のいい人なんだと思った。
部屋に戻ろうとすると、緑谷くんに手を掴まれた。
「あのさ、見せたいものがあるんだけど…!」
「見せたいもの…?」