第4章 欠落した記憶
けど、信用されてないのか、結局爆豪くんはキッチンまでついてきて、調理中、ずっと見られていて、何だかやりにくかった。
「橘何作ってんの?」
そう尋ねてきたのは上鳴くんだった。
「カレーだよ。」
「俺の分もあったりする?」
「は!?ふざけんなアホ面!ねえよ!」
さっきまで機嫌は悪くなさそうだったのに、一気に不機嫌になる爆豪くん。感情の起伏が激しい人だなあ。
「私と爆豪くん二人じゃ食べきらないし、私が作ったので良ければ。」
「マジ?やった!女子の手料理ゲットー!」
「ふざけんなアホ面!ぶっ殺すぞ!」
「なんで爆豪が怒んだよ!?」
拳からは爆発音が鳴り響き、鋭い瞳はいつも以上に尖ってる。今のやり取りの何処に怒る要素があったのか皆目検討もつかない。
「あ、でも凄く辛いヤツだけどいいかな?」
「橘辛いのが好きなの?なんか意外。」
「ううん、私はどちらかと言うと甘いのが好きかな。辛いのも大丈夫だけど。」
あれ?それなら私はなんで甘口じゃなくて、辛口…それも普通の辛口じゃなくて、激辛カレーを作ってるんだろうか?
「…俺が辛いのが好きなんだよ。」
そう言ったのは爆豪くんだった。
「いーよな、爆豪は。メシ作ってくれる可愛い幼馴染みがいて。」
先程まで怒っていた爆豪くん。それが嘘みたいに落ち着いて、再び椅子へと腰を下ろした。
記憶が無いにも関わらず、自然と辛口のカレーを作ってた所からして、やっぱり私と爆豪くんは幼馴染みで、記憶が欠如していても、体がそれを覚えていたのだと思った。
上鳴くんにも作ったカレーを分けてあげると、カレーを一口食べると辛え!と涙目になりながら叫んでいた。爆豪くんは黙って私の作ったカレーを黙々と食べていた。美味しいなんて言葉は掛けてもらえなかったけど、おかわりもしてくれていた所を見ると不味くは無かったんだと思う。