第4章 欠落した記憶
勉強を教えて貰えるのは正直有難かった。ヒーロー科と言えど、他の学科と同じく、普通教科も学ぶ訳で、中学三年生の頃から、高校一年生の夏までに習うであろう箇所がすっぽり頭から抜けていた。抜けていたというか、その期間行方不明だったのだから、勉強してなかったという方が正しいだろう。だから、皆が入寮する前に与えられた教材を元に自習していたが、基礎が出来てないから数学なんかは全然分からなくて、どうにかしなきゃと思っていた。だから、こうやって勉強を見てくれるのは有難い。言葉こそは乱暴だけど、思いの外、爆豪くんは教えるのが上手い。分からなかった公式が嘘みたいにスラスラ解けていく。一学期に爆豪くんが取ったノートも男の子にしては非常に綺麗に纏められれいて、参考書なんかよりも随分役立った。机を挟んで向かい合う形で爆豪くんは今日出された課題を解いていて、ペンを握る男らしい大きな手に思わずドキッとした。黙っていれば、爆豪くんは俗に言うイケメンという部類なんだと思う。大事な事だからもう一度言うけど、黙っていればだ。
「…んだよ。」
私の視線に気付いたのか、舌打ちをしてそう尋ねてきた。
「えっと、ここ分かんなくて、」
私からノートを奪うと、さっきも教えただろうがと悪態付くが、それは口だけで、教え方は非常に丁寧だ。
勉強が終わる頃にはすっかり日も暮れていた。
「爆豪くん、ありがとう。凄くわかり易かった。えっと、御礼になんか作ろうか?何か食べたいのある?」
「…カレー。」
「分かった。」
席を立ち、共有スペースにあるキッチンに向かおうと部屋を出ようとしたが、私の後をついて一緒に部屋を出てきた爆豪くん。
「えっと、ちゃんと持ってくるよ?」
「変なモン入れられたら堪んねえからついてく。」
「記憶が無くたって、ご飯くらいちゃんと作れるよ。」
実際、皆が入寮する前もなんの問題もなく自炊出来てたのだから。