第4章 欠落した記憶
支給された雄英学園の制服に袖を通した。雄英学園の制服を着た鏡に映る自分。不思議な感覚だった。
今日から授業が始まる。私が何の事件にも巻き込まれず、普通に生活出来ていたのであれば、雄英学園の普通科に通っていた筈。けど、私が今日から学ぶ場所は普通科ではなくヒーロー科。人々を災害や敵(ヴィラン)から守るヒーローになる為に勉強をする場所。ヒーローと聞けば何だかカッコいい物のように思える筈なんだろうが、その〝ヒーロー〟というフレーズは何故だか私の心を入り乱す。それは私の個性が〝記憶操作〟というヒーロー向けでは無い個性のせいなのだろうか。…分からない。
記憶を辿っても、病院のベッドで目を覚ましたあそこで行き詰まる。個性を使用して自身の記憶を探ったが、やはりそこまでしか遡る事が出来ない。ある筈の記憶は完全に私の中から欠落していた。
「おはよう、玲奈ちゃん。」
「あ…おはよう。」
「昨日は大丈夫だった?」
心配そうに声を掛けてくれる緑谷くん。怒ってばかりの爆豪くんと違って緑谷くんはいつも私を気遣ってくれていて、その優しさに何処かホッとする。
「うん、大丈夫だったよ。」
ベッドに組み敷かれそのまま気を失ったなんて、恥ずかしくて言える訳ない。実際、ベッドに組み敷かれただけで、何も無かったのだから。
「あのね、緑谷くん。」
昨日言えなかった私の記憶についての話をしようと思ったが、麗日さんに声を掛けられ、結局今朝も話せなかった。
「玲奈ちゃん、さっき何か言いかけてなかった?」
「ううん、何でもない。」
クラスも一緒だし、同じ寮に住んでるし、話す機会は幾らでもある。
「あ、ごめんね。大事な話してる所だった?」
「ううん、大丈夫。何でもないの。それじゃあ私、先に行くね。」