第4章 欠落した記憶
爆豪くんに手を繋がれたまま、私は爆豪くんの部屋へと連れて行かれた。今日入寮した爆豪くんの部屋は引っ越し準備が済んでおらず、ダンボールが山積みになっている。今日は皆荷物整理で授業はない。私は一足先に入寮を済ませていた為、特にやる事はない。
「そこにいろ。」
そう言われ、部屋の隅に座るよう言われた私は、爆豪くんに言われた通り、その場に腰を下ろした。
爆豪くんは荷物の紐を解き、部屋作りを始める。ここに私がいる意味はあるのだろうか。自分の部屋に戻りたいけど、それを言い出せる雰囲気でもない。
「爆豪くん、私も手伝おうか?」
「…ちげーだろうが。」
「え?」
「そんな風に俺の事呼んだ事はねえだろうが。」
そうは言っても、私は記憶がない。爆豪君を何と呼んで、どんな風に接していたのか、全く覚えていないのだ。
「…私は何て爆豪くんの事呼んでたの?」
そう尋ねると、爆豪くんは眉間に皺を寄せた。そして、言いずらそうに小さな声で、〝かっちゃん〟。そう言った。こんな強面で、目つきの悪い爆豪くんをまさかのちゃん付けで呼んでいたとは。せめて勝己くんと、名前呼びであって欲しかった。爆豪くんが名前の呼び方を口にしたという事は、恐らく昔のように〝かっちゃん〟と呼んで欲しくてなのだろうけど、それを口にする勇気はない。爆豪くんに取って私は幼馴染みの橘玲奈なのだろうが、私にとっての爆豪くんは初対面の爆豪勝己くんなのだ。昔どれだけ仲が良かっただろうとそれは今関係ない。私の中からは綺麗さっぱりその記憶が欠落しているのだから。
「…ごめんね?」
「あ?」
「爆豪くんの事、忘れちゃってて…。」
そう言うと初めて爆豪くんと病室で会った時のように、爆豪くんは寂しそうな表情をした。その表情に胸が苦しくなる。