第4章 欠落した記憶
「えっと、ごめんなさい。どちら様ですか?」
「え?僕だよ、緑谷出久!」
緑谷出久。それは私のもう一人の幼馴染み。先日病室を訪れた爆豪くんのお母さんが教えてくれた。
「あ…!貴方が緑谷くん?」
私の幼馴染みである爆豪くんと緑谷くんは、二人共雄英のヒーロー科の生徒なのか。そんな二人と幼馴染みなんて、もしかして、私も実は凄い人物だったんじゃないだろうかと思った。
「オイ、デク。いつまで玲奈の手握ってんだ!」
「あ、ごめん!」
鬼の様な形相で私達を睨み付ける爆豪くん。その表情があまりにも怖くて、私はその場に固まった。緑谷くんに離された手を今度は爆豪くんに握られた。そして、そのまま何も言わず、私の手を引いたままスタスタと寮の中へ入って行った。
「オイ爆豪!可愛い転入生独り占めすんなよなー!」
クラスで一番背の低い…というか、マスコットのような男の子にそう声を掛けられ、爆豪くんは足を止めた。振り返った爆豪くんはそれはそれは怖い表情だった。
「コイツに手出したらぶっ殺す!」
ここはヒーローを目指す、その卵達のいるクラス。ここにいるということは、勿論爆豪くんもその一人なのだろうけど、クラスメイトに物騒な事を言った。ぶっ殺すなんて冗談でも言っちゃダメでしょ。ていうか、あの物言いからしてそれを冗談とは取れない。
「爆豪くん…!」
私が名前を呼んでも爆豪くんは返事をしてくれない。強く握られた手が少し痛い。この手はいつになったら解放されるのだろうか。こんな怖い人と幼馴染みだったなんて、以前の私はどんな風に接していたのだろうか。残念乍その答えを今知っているのは爆豪くんただ一人だ。