第4章 欠落した記憶
目を覚ますと、私は病院のベッドの上だった。どうして自分がこうしてここにいるのか分からなかった。ここに辿り着いた経緯を思い出そうとするが、全く思い出せない。そして病室を訪れた看護婦さんに、先生!橘さんが目を覚ましました!と言って病室を出て行った。そして先程の看護師さんに続いて、先生がやって来た。
「自分の名前が分かるか?」
「橘玲奈…。」
「ここか何処だか分かるかい?」
「…病院?」
そんな簡単な質問が繰り返された。その質問に何の意味があるのだろうか。なんて思っていたら、警察が病室へと入ってきた。
「…私、何かしたんですか?」
その問い掛けに警察の人は優しい笑みを浮かべた。
「違うよ。君は一年半前、両親を敵(ヴィラン)に殺され、行方不明になっていた。だが、先日とある場所で発見されたんだ。コイツらの事、分かるか?」
そう言って並べられた写真。同い年位の女の子や、鳥みたいな人、顔に手がついた人。どれも初めて見る人だ。素直に分からないと答えると、先程先生が私に質問したように質問を重ねる。けど、私はその答えを知らない。
「自分の個性が何かは分かっているか?」
私はその質問に頷いた。
私の個性は〝記憶操作〟。対象者の頭に触れる事で相手の記憶を書き換えたり、覗いたり、消したりする事が出来る。
「じゃあこれが最後の質問だ。君は自分の個性を自分に使ったのかい?」
「…分かりません。」
自分に対して個性を使用した事は無いし、使用しようと思った事がないから分からない。でも、思い出そうと記憶を辿っても、私の記憶はここで目を覚ました所で行き詰る。それより前の事を思い出そうとしても、何も思い出せない。というよりは、元々何も無かったという表現の方が正しいのかもしれない。私の中は空っぽだ。