第6章 爆豪くんのいない四日間
全ての記憶を見終わり、緑谷くんの頭から手を離した。閉じられていた緑谷くんの瞳が開き、視線が混ざり合う。
「…え!?玲奈ちゃん、どうしたの!?」
緑谷くんは驚きの声を漏らした。緑谷くんに指摘され、初めて自分が泣いている事に気付いた。
「あれ…?なんで…?おかしいな…。」
緑谷くんの記憶が懐かしかったワケでも、悲しかったワケでも無い。ただ、唯一私の中に芽生えた感情は昔の自分への嫉妬。今の私には無いひたむきさやヒーローに対する憧れ、幼馴染みの二人を思いやる気持ちが無い。だから、その全てが羨ましかった。そう思ってしまう程に今の私は空っぽで、何も持っていなかった。
「ごめんね。大丈夫だから。」
零れる涙を擦り、笑顔を繕う。けど、涙は止まる事無く、次から次へと溢れ出る。
「例え記憶が無くたって、玲奈ちゃんは玲奈ちゃんで、大切な幼馴染みである事は変わらないよ。玲奈ちゃんが昔の事を忘れてたとしても、僕とかっちゃんがちゃんと覚えてるから。だから困った事があったら何だって頼って欲しいし、今度こそ玲奈ちゃんを守りたい。あ、いや、えっと、玲奈ちゃんもヒーロー志望だから守るなんて烏滸がましいよね。」
私は首を横に振った。何も覚えてない私には勿体無い位優しい言葉。
「今度は一緒に立ち向かっていけるようになりたい。もう二度とあんな思いをしたくないし、玲奈ちゃんにずっと笑ってて欲しいんだ。かっちゃんも口では言わないと思うけど、僕と同じ気持ちだと思う。」
緑谷くんの言葉は不思議な程、胸の中にスっと入って行った。
「ありがとう。緑谷くんとまた逢えて良かった。」