第6章 爆豪くんのいない四日間
「昔の私との記憶だけを思い浮かべて。それ以外の記憶には絶対触れないって約束する。」
「分かった。」
椅子に腰掛ける緑谷くんの前に立ち、緑谷くんの頭に触れた。
「search.」
人の記憶の中はパソコンと殆ど同じ。記憶が種類ごとにフォルダ分けをされている。緑谷くんの中にある橘玲奈と記された記憶(ファイル)を開けば、まだ幼い緑谷くん、爆豪くん、そして私がいた。緑谷くんが言っていたように爆豪くんが個性に目覚めるまでは三人で仲良く遊んでいた。昔の緑谷くんは今と変わらず、そのまま大きくなった感じ。爆豪くんは昔も変わらず勝ち気な性格だけど、緑谷くんや私に接する態度は今よりもずっと優しかった。けど、その関係も爆豪くんが個性に目覚めた事により徐々に変わり始めた。目覚めた〝爆破〟の個性。その矛先は真っ直ぐに緑谷くんに向いていた。
『〝無個性〟のくせにヒーロー気取りかデク!』
そう言って近所の子達と寄って集って緑谷くんを殴りつける爆豪くん。過去の出来事とはいえ、見ていて気分のいいものじゃない。
『いっちゃんに意地悪しないで!』
声を震わせ、爆豪くんに掴みかかる私。爆豪くんは暴言を吐きながら私の手を掴んだ。暴言を吐かれる度に目に涙を浮かべる昔の自分。それを周りの男の子二人が押さえつけようとしたが、その手は私の体に触れる前に爆豪くんに止められた。
『いつもデク、デクってムカつくんだよ!無個性と没個性同士仲良くしてろや!行くぞ!』
聞き覚えのあるフレーズ。ここに来てからも爆豪くんに言われた覚えがある。
『玲奈ちゃん…僕のせいでごめんね。』
『大丈夫…。かっちゃんも本気であんな事言ってるわけじゃないって分かってるから。かっちゃんが優しくて強いってのは私達が一番良く知ってるもんね。だからかっちゃんの事嫌いにならないでね?』
涙で濡れた目を擦りながら精一杯の笑顔を見せる私。私だけど私じゃない。真っ直ぐで強い。何かに怯えるワケじゃなくて、立ち向かう勇気を持っている。今の自分と全く性格の異なる自分。そんな幼い日の私が少しだけ羨ましく思えた。