第6章 爆豪くんのいない四日間
「ちょっと、橘!アンタいつまでそこにいるつもり!?」
「…え?」
気が付けば、私は大浴場にいた。目の前には呆れた様子で私を見る耳郎さん。私、部屋にいた筈なのに…何で?
「…汚いの。私、汚れてる。」
口から出た言葉は自分の意思で発したものじゃない。無意識に出た言葉だった。
「何言ってんの?そんだけ念入りに洗って汚れてるワケないでしょ。ほら、さっさと上がるよ。」
耳郎さんに手を引かれ脱衣場に連れ出された。けど、無意識でここに来た為か、着替えもタオルも持ってきていなかった。それを見た耳郎さんはどんだけおっちょこちょいなんだと呆れていたが、外に出れない私に代わってタオルと着替えを取りに行ってくれた。
「ちゃんと水分補給しなよ。」
「耳郎さん、なんかお兄ちゃんみたい。」
優しい耳郎さんの言動に思わず笑みが漏れた。
「そこは普通お母さんって言う所じゃない?…何?ウチ、そんなに男っぽい?」
「あ、いや、ううん!耳郎さんの事男っぽいとか思った事無いよ!」
慌てて自分の発言を否定すれば、耳郎さんは冗談だよと言って笑った。
両親の事を覚えて無いから、〝母親〟という単語が出てこなかったのは分かる。けど、何故〝兄〟という単語が浮かんだのか。…もしかしたら、私にはお兄ちゃんがいたのだろうか?もしそうだとしたら少しずつ何か思い出してきているという事なのかな?