第15章 しない。切ない。
「シャチ、失恋したからって飲み過ぎだ」
「今日はいいんだよ~」
ペンギンとシャチは甲板で夜空を眺めながら飲み直していた。カナエに淡い恋心を抱いていたシャチはショックでやけ酒に走っている。
「全然知らなかったなぁ~。ペンギンは気付いてたかぁ?」
「まぁ………薄々な。カナエが現れてから船長、楽しそうだっただろ。」
「そういえば………」
あまり表情を変えないローが、最近笑う事が多くなっていた。
「カナエは船長の女にまだなって無いっては言ってたけど………カナエは嫌そうじゃねェし、あの様子じゃ既に何かはあったんじゃねェか?」
「何かって何だよ………」
「寸前まではいったとか………」
「聞きたくねェ!!」
シャチは耳を塞いでしまった。
「悪ぃ悪ぃ。でも、相手が船長で良かったじゃねェか。」
「…そうだな……他の奴だったらぶっ潰す。」
「………俺でもか。」
「ペンギンでもだ。」
「こえー」
酒を飲んで、気の知れた仲間と話をして、シャチは少し元気になってきた様だ。
「うおー!明日からカナエさんの前でどんな顔したらいいんだー!!」
「うるせェよ。普通でいいんじゃねェのか?」
「ペンギンは今まで通りでいいよな………カナエさんのお兄ちゃんだもんな………」
「ハハハ……そうだな。妹には幸せになって欲しいよ。」
「俺、すげェアプローチしてたのになぁ~」
「多分それ、カナエは本気にして無ェぞ。」
「マジか………これ以上やったら怒られるかな……」
「船長にバラされるぞ。ROOM の外で。」
「死ぬじゃねェか!」
その後も他愛も無い会話が続いた。気が付けば二人の回りには酒瓶がいくつも転がっている。
「あ~。飲みすぎた……もう部屋に戻ろうぜ~……」
「俺はもう少し酔いが冷めてからにするよ。先に行っていいぞ。」
「じゃあお先。……ペンギン、ありがとな。」
「おー。枕濡らすなよ。」
「うるせェ!!」
シャチはペンギンを残して部屋に戻って行った。
一人になったペンギンは満天の星を眺めながら、大きく溜め息をついた。
何かスッキリしたような、しかし少し寂しそうな複雑な笑みを浮かべている。
「なかなか切ないねー。」
ペンギンの想いは誰も知らない。