第15章 しない。切ない。
『やっぱりいいです。おやすみなさい。』
カナエは部屋に入ろうとしたが、ローがいきなり手首を掴んできた。
一瞬の出来事。
気が付くと、カナエは壁に背を付け、両手首を顔の横で押さえつけられていた。さらにローはカナエの足の間に片足を入れていて、全く身動きが取れない。
『股ドン………壁ドンでは無く………』
「何言ってる。」
ローは手首を掴む手をカナエの顎に移し顔を近づけて来る。しかし、唇と唇が触れそうになった時ローの動きが止まった。
「今日は逃げねェのか。」
『あ………』
ローはシュルティとキスはしてない。それを聞いた時、カナエは胸が高鳴った。
(嬉しかった?)
他の女と違う。ただの優越感か。
(そんなのじゃ無い……何だっけ……この感じ……)
このモヤモヤした気持ちが何なのか考えていると、ローから逃げて良いのかどうかも分からなくなった。
「俺は気持ちが無いとキスはしねェ。………お前と一緒だ。」
ローは耳元で囁く。その静かで色気のある声にカナエはもう何も考えられない。
『そう……ですか………』
「いつもみたいに反抗してこねぇんだな……このまましても良いのか。」
『………あの……私の気持ちは……無視ですか…』
「……じゃあ、さっきお前を庇っただろ。その礼をしろ。」
精一杯の反抗だったが、それぐらいではローは引かない。カナエは考える事を諦めた。
『………………………はい。』
「………………良い子だ」
ローは、何時に無く素直なカナエに少し驚いたが、いつもの笑みを浮かべ顔を近づけてきた。
少し薄いローの唇とカナエの唇が重なる。
いつもの俺様で強引なローとは違う、触れるような優しいキス。
あーあ。
馬鹿だな私。
キスして初めて自分の気持ちに気づくなんて。
30年、いったい何してたんだ。
一目惚れとか運命なんて、くだらない事は信じないけど………
「続きは?」
『しない。』
「クックックッ………素直じゃねェな。」
最初から好きだったみたい。