第13章 航海の日常
『はい。難しい本は読めないですけど……本の匂いとか、感触とかも全部好きです。』
「いつでもここに来て読むといい。」
『えっ!やった!ありがとうございます!』
「お前も朝飯食べてこい。まだだろ?」
『はい!じゃあ、失礼します。』
カナエは部屋を出て、少し離れた所で大きく溜め息をついた。
『はぁぁぁぁ~~~~』
(あの時……キスしたと思ったからあんなに怒って、私にも突っかかって来たのかな……
あの男とはしただろって……言った。)
あれじゃあ、ただの嫉妬じゃないか。
俺の女になれってのは、異世界から来た女に対するただの興味本意だと思っていた。
でもそうだったら、あんなに感情を露わにするだろうか。
(何か……本気みたいじゃん……。)
カナエは今更ながら心臓が高鳴り、顔が真っ赤になってきた。
(ヤ……ヤバい……。苦しい……。どうしたら良いの……。)
カナエは、男性とはどちらかと言うと穏やかな付き合いをしてきた。あんな風に半ば強引に迫られたことは無い。
ローが本気だと感じ、カナエは動揺している。
(早く戻らなきゃ……皆の顔見たら落ち着くかな……)
カナエは初めての感覚に足元をおぼつかせながらキッチンに向かった。
「カナエ!遅いよー!皆食べ終わっちゃうよ?」
ベポだ。少し気持ちが落ち着いた。
『ごめんね。船長さんがなかなか起きなくて……』
「カナエ?顔が赤いけど……どうした?」
ペンギンが顔を覗いてきた。
誤魔化さなければ。
『おっ……お腹が空き過ぎて全速力で走ってきただけ!!早く食べるね!!』
カナエは、両手におにぎりを持ってガッつき始めた。頬がはち切れそうな程膨らんでいる。
「食いしん坊か……お前は……」
カナエとローの間に何が起こっているかは、誰も知らない。