第41章 ある日、森の中。
『頑張れ、負けんな……。力の限り生きてやるんだ……ガンバレルーヤ。』
ブツブツと独り言を言いながら、森の中をまた進む。
苛立っているせいか、散歩にしては早足だ。
『あー、ヤバイな。』
落ち着こう。
ここがどこだか分からなくなった。
『どっちから来たっけ……。』
いきなりこの展開。完全に迷子だ。
カナエはキョロキョロと辺りを見渡す。
だいぶ奥深い所まで来てしまったようだ。
太陽の光が差し込む森は、とても静かで。
『何か、出てきたらどうしよう……。ワーニーとか。うぅ。』
ビクビク。キョロキョロ。
『何か呪文とかあってさ、簡単に発動できたらさ、良いと思いませんか?』
残念だが、血の力の事を作者は忘れがちだ。
断言する。発動はしない。
カナエは根性で歩き回った。
『うわっ!』
30分程、歩いた時だった。
ふいに視界に入った木の影に、白い塊がいるのに気が付いた。
『べ、ベポ?』
「あ、カナエ……。」
一人で心細い時に出会えるなんて、グッドタイミングだ。
「こんな所まで来て、どうしたの?」
『それはこっちの台詞……。』
ひと安心だが、何故か彼は元気が無い。
背中を丸くして膝を抱えて座っている。
心なしか、目が赤い。
『……ベポ?』
「…………。」
顔をじっと見つめると、ベポは俯いてしまった。
ああ、しまった。
ベポにとってはバッドタイミングだったようだ。
ここはベポの故郷だと言うし、何か昔の事を思い出していたのだろうか。
楽しい事か、悲しい事か。
友達や家族の事か。
いずれにせよ、こんな時は何も聞かない方が良い気がする。
でも一人でいるのは、きっと寂しい。
『よいしょっと。』
隣に座っておこう。歌でも歌って。
『ある日ぃー、森の中ぁー。』
カナエは今日、よく歌う。
「……何の歌?」
『……くまさんに出会う歌。』
「……それ、俺の事?」
『そうそう。』
「俺って"くまさん"って感じする?」
『うん、"危険生物"ってより、"くまさん"って感じ。』
「それ誉められてるの?」
『誉めてるよ。ぎゅってしたくなる感じ。こうやって!』
「わっ!」
立ち上がったカナエ。
それでも自分より背の高いくまさんに、勢いよく抱きついた。