第41章 ある日、森の中。
『「あ。」』
散歩をする前に木の上の部屋に一度戻ろうとすると、男部屋から降りてきたイッカクと鉢合わせた。
「チッ。」
顔を見た途端の舌打ち。
気持ちの良いくらいの不快感の表し方だ。
『お、おはよう。』
正直、腹は立つ。
やられたらやり返せ、倍返しだ!!と、無言で立ち去りたい所だが、たかが舌打ち、些細な事だ。
こちらの方が年上だ。
自分を冷静に保って、世間話でもしよう。大人の余裕を見せるのだ。
『昨日はよく眠れた?起きたら居なくなってたから、びっくりしちゃった。』
「…………。」
(無視かい。)
しかし、そっぽ向いている顔も美人だ。
つなぎ姿でも醸し出される色気。ワンピース特有のナイスバディを見ていると劣等感に苛
まれる。
イッカクと正反対の自分に、ローの女と言う立場を勝ち取る事が出来るのだろうか。
『も、もう起きるの?まだ寝てても大丈夫だと思うよ。』
「………………小便だよ。」
『さいでっか……。』
おいおい。
もうちょっと言い方があるでしょうが、うら若き乙女よ……。
いや、そんなに若くはないか。
イッカクは、不貞腐れたままカナエの横を通り過ぎて行った。
トラブルに発展しなくて済んだ。
決して平穏な空気では無かったが、それで良しとしよう。
『はぁ。』
気持ちを切り替えて、森の中を歩く。
だが一人でいると、色々と考えてしまう。
例えば船を降りろと言われた場合の身の振り方だ。
ロー達がゾウに到着して、何も聞かずにゾウ編をやり過ごしたとして。
その後、
「俺の女はイッカクだ。お前はいらねェ。」
なんて言われたとして。
『その先、知らないんですけど……。』
元の世界に帰ろうにも、その術がないのだ。
『…………いかん、いかん。』
何事もポジティブに。
だが自分が負けた時の、イッカクの勝ち誇った顔が、こちらを見下ろす蔑んだ顔が思い浮かんでしまう。
『はぁーふぅー。』
深呼吸をして、落ち着くのだ。
ベポを探そう。白い塊に癒されよう。
『人生色々経験してますよー。』
齢30。
大人の女性。
『…………。』
相手は、感情むき出しの子供。
舌打ちされたくらいで、めげてはいけない。
『くそが!!』
カナエは思わず本心が漏れた。