第41章 ある日、森の中。
「あー、眠……。」
ゾウの国は朝を迎え、夜行性のミンク族が暮らす「くじらの森」は、とても静かだ。
昨日は明け方まで宴が続いた。
宴が終わった後は皆、仮住まいで眠りについた。男女で分けて使える様にと与えられた二つの家。
イッカクと一緒だなんて眠れる訳がない。
と、思っていたが、酒を飲んでいたせいか直ぐに眠ることができた。
だが深い眠りには入れず、数時間後に目が覚めると、イッカクはいなくなっていた。
彼女もカナエと一緒が嫌だったのだろう。
今は男船員の中に埋もれて眠っている。
『あふぅ……。』
あくびが出る。完全な寝不足だ。
まだ寝ていたい。
だがカナエには使命があった。やり遂げなければならない使命が。
『うぅ……手洗いはしんどい……。でも早く洗わないと乾かない……。』
洗濯物である。
船員達のつなぎを洗う事を、カナエは一手に引き受けた。
皆が着ていたつなぎは血と泥で汚れていて、元の白さが分からないくらいだった。
そして、汚れ云々よりも臭い。
酷いなんてものじゃなかった。
2、3日でついた臭いでは無い。
蓄積されたような臭い。
『誰も気にしなかったのかな……。信じられない……。』
聞くと、カナエがいなくなってから洗濯は数日に1度まとめて洗う程度だったと言う。船員が増えてからは更に頻度が減ったらしい。
掃除に関しても同じ。
新世界の航海に手一杯で、船の中の汚れにまでは気が回らなかった。
唯一の女船員のイッカクは、そういった事はあまり気にしないタイプらしく、彼女が率先して掃除洗濯をする事は無かったとの事。
船の中は一体どんな状況になっているのだろう。見るのが恐ろしい。
『とりあえず今は洗濯っ……と。』
溜めてあった雨水と、汚れと臭いがゴッソリ落ちると教えてもらった植物を使って、一枚ずつ丁寧に洗っていく。
一枚洗ったら、それを直ぐに干す。
つなぎは20人分あるが、今日中に終わるだろうか。
夜、皆が起きている時に手伝って貰う事も考えたが、やはり太陽の下で一気に干すのが一番だ。
洗濯板に力一杯擦り付ける。
分厚い生地を恨む。
2時間程経って洗えたのは4人分。
うんざりだ。
『歌でも歌うか……。』
自分を奮い立たせる為、カナエは大声で歌い始めた。
テンションの上がる、大好きな歌だ。