第40章 宴だ!
「ここ数日、溜め息ばかりついているぞ。」
『え、ホント?ごめん、無意識かも……。』
しかし、そんなに盛大な溜め息はしていない筈。顔にも出さない様に気を付けていたつもりだ。実際誰にもこんな風に声を掛けられていないし、皆いつも通りの態度だった。
この大きな体の中身は細やかな気配りができる紳士。これがギャップと言うものか。
「何か悩みでもあるのか。」
『うーん、ちょっとモヤモヤしてる、かな。』
「そうか。」
『仲良くしたいけど、それは難しいかもしれない。』
「話し合えない事なのか。」
『以外と平和主義だよね、ジャンバールは。』
「無益な戦いはしない方が良い。」
『戦うって。そんな大袈裟じゃないけど、話し合ったら修羅場になるかも。』
勘が間違っていなければ、だが。
「誰の事を言っているのか知らんが、何かあったら俺はお前の味方をする。」
『あ、ありがと。何か照れる……。』
「何故だ?」
『いや、そんなにハッキリ言われるとね……。でも、何か元気出た。へへ。』
「そうか。」
『私、シャチの所に行くね。ジャンバールも皆の所に行って来なよ。美味しいもの持って行くからさ、ゆっくり飲んでて。』
「ああ。」
ジャンバールは少し微笑むと、宴の席へと向かって行った。
詳しく理由を話していないのに、味方だと言って貰えるのは単純に嬉しい事だ。
カナエは調理場へと急いだ。
そろそろ次の料理が出来上がっている筈。大食漢達は、皆お待ちかねだ。
『あ、』
「よォ。」
あれまぁ。イッカクさん。
悩みの種の張本人が入り口の前で待っていた。腕を組んで、挑戦的な目。
『ど、どうしたの?』
笑顔を作ってみるが頬が引きつる。
どう見ても、一緒に飲もうぜ!なんて雰囲気では無いからだ。
「あんたに一言、言いに来たんだよ。」
『何でしょうか……。』
イッカクはカナエにゆっくりと近づいて来た。
それは、まるで獲物を狩る前のメスライオンの様で。
(に、逃げたい。)
思わず後退りするが、逃げては駄目だ。
恐らく彼女はカナエに宣戦布告をしに来たのだ。
カナエには、イッカクに敵視される心当りがある。
きっと、思い過ごしではない。
「あの人は、アタシのもんだ。」
ああ、やっぱり。
「アンタには絶対渡さない。」