第39章 大丈夫。
「そんなに怒るなよ。」
『だって、質が悪い。』
三人が去った後もカナエはまだ憤慨している。
『もしや、ペンギンくんも共謀者?』
「違うって。」
『だよね。ペンギンくんは、そんな事しないもんね。』
「お前、泣きそうな顔してたな。」
駆けつけて来た時のカナエを思い出して、ペンギンはとても愉快そうだ。
『やめてよ。恥ずかしいじゃん……。』
「でも、ありがとな。」
何が?とカナエが問いかけても、ペンギンは何も言わない。
彼女を見た時、堪らない気持ちになったのを、誰に言う事もないだろう。
『?』
彼はただ、目を細めて笑っている。
『ペンギンくん、皆より怪我が酷いね……。』
ペンギンの気持ちを余所に、カナエは彼の包帯の多さが目についた。
「派手に動く旦那の近くにいたからなァ、強い敵にぶち当たっちまった。」
軽く言うペンギンだが、どう見ても他の誰よりも重症だ。
『痛そう。』
「まァな。」
『まだ顔色も悪いし、』
「そうか?」
『うん。』
「俺は平気だけどな。」
『……………………。』
「…………カナエ?」
「あれ、カナエさん!?」
言いようのない悔しさが込み上げてきた。
もっと早く、ゾウに上陸が出来ていたら良かったのに。
もしかしたら。うまくいけば。
少しでも軽い怪我にとどめるとか、あまり毒ガスを吸わずに済んだ、とか。
皆の痛みを軽減する事ぐらいは出来たかもしれない。
自分は何も出来ず、流されるまま。
ただ皆を心配して、ただ走り回っていただけ。
『何か、ゴメンね……。』
「カナエさん!泣かないでくれー!」
何も変えられない。
知っているだけで、守る、なんて事が出来ない。悔しい。
「カナエ。」
ポンポン。
『ペンギンくん…………。』
頭の上が心地良い。
年下のお兄ちゃんの、優しい声と、ふわりと包み込むような笑顔。
「俺達は大丈夫だ。」
『うん。』
零れた涙は、あったかい。
「おかえり。」
後悔なんてする必要ないじゃないか。
『ただいま。』
何も変わらなくて良かった。
それで良いんだ。