第39章 大丈夫。
随分遠くに、小さく、だ。
木に身を預け、俯いて座っている人影が見える。
とても背の高い、とても体の大きな男の様だ。
「死んじゃいねェよな……!?」
『そんな、まさか……。』
あれは。
あのシルエットは。
今すぐ彼に走り寄りたいが、イッカクの体の事を考えると無理だ。
同じ気持ちの彼女を置いて、自分だけ行くなんて出来ない。
「先に行ってくれ!」
『え、でも……一緒に行こう。』
「アタシは走れないから、見てきてくれ……!早く無事かどうか知りたい。」
『……うん、分かった。無理しないでゆっくり来て。傷口開いちゃうから。』
イッカクが頷いたのを確認して、カナエは男の元へ走った。
イッカクも傷口を押さえながらカナエの後を追う。
早く、早く。
『ぎゃっ!!』
何も無い所で転んでしまった。
疲れていたとは言え情けない……。
「何やってんだよアンタ!早く行けよ!」
『わっ!ごめんなさい!』
苛立つイッカクに後ろから罵倒され、体を起こして、また走る。
急げ、急げ。
『ジャンバール!!』
名前を呼ぶと肩がピクリと動いた。
俯いていた顔をゆっくりとこちらに向ける。
カナエはジャンバールに駆け寄った。
体のあちこちに怪我をしている。顔色も悪い。
だが、生きていた。
頬に手を当てると暖かい体温を感じる。
「カナエ、か?」
『うん。』
「戻って来たんだな。」
『うん。』
「そうか。」
ジャンバールの滅多に見せない笑顔に驚いたのも束の間、大きな手のひらが頭の上に置かれた。
彼の優しそうな表情は、よしよし、と言っているかの様だ。
『ふふ、元気そうだね。』
「お前もな。」
『毒ガスは?』
「吸っていない。何とか逃れた。」
『良かった……。』
「それより何故ここに……。船長には会えたのか?」
『うん。こっちに来たらローの所だった。』
「運命か……。」
『あのさ、その顔で乙女みたいな事言わないでよ……。』
「乙女ではない。男のロマンだ。」
『ちょっと違うんじゃ……。』
二人は互いの以前と全く変わらない様子に、また顔が綻んだ。
戻って来たんだと、カナエは改めて実感した。