第38章 ほっつき歩いてんじゃねェ。
………………イラッとする。
『過信なんてしてないし。調子にも乗ってない!自分の力が頼りない事ぐらい充分知ってますぅー!』
小学生か、とツッコミたくなる言い方だ。
冷静になろう。冷静に。
『私を忘れられないって言うから、それを利用してやろうと思っただけです。血の力なんて必要の無い事だったし、実際上手く騙せたし。結果オーライです。』
感情的になると上手く話せなくなって相手に何も伝わらない。
いい大人なんだから。落ち着いて、冷静に。
「ふざけるんじゃねェ!一歩間違えれば無事じゃ済まねェ状況だ!もう少し考えてから行動しろ!!その足りねェ頭でな!!」
だー!!腹立つなぁ!!
『そりゃあローに比べたら頭悪いけど!皆の為を思った結果でしょうが!私だって必死だったんだよ!そんなに怒らなくてもいいじゃん!鬼!冷徹人間!鬼灯か!!』
「何だと!!!」
駄目だった。
冷静になろうと決意したばかりなのに。
「おい、ロー!」
「黒足屋は黙ってろ!」
「聞けよ。カナエちゃんは自分に出来る事をしようとしただけだ。そんな言い方は無ェだろ。彼女は身を挺してでも俺達を守ろうと、」
「そんな事は分かってるんだよ!」
「は?」『え?』
分かっている。
この女は、大好きだと言ったこの世界の為に、自分の身を危険に晒す事を厭わない。
何故、一人で何とかしようとした。
何か異変が起きたって放っておけば良い。
もっと俺を信頼しろ。
何故、平気なふりをする。
その眼を見れば分かる。
死ぬほど嫌だったんだろ。
泣いたら負けになると、また言うのか。
脇目も降らずに俺に縋り付けよ。
気に入らねェ。
「泣きたかったら泣け!」
『だ、大丈夫だよ。そんな、純情な乙女じゃないし……。』
「チッ。」
ひねくれ女が。
『……あの、えっと、』
ああ、ローの匂いだ。
「俺から離れて、ほっつき歩いてんじゃねェよ。フラフラしてるからそんな目に遭うんだ……!」
『ご、ごめんなさい……。』
彼の匂いに包まれて、張り詰めていた糸が切れてしまった。
一体何に意地を張って、我慢をしていたのだろう。
ローの顔を見た時、抱きつきたい衝動に駆られていたくせに。
「それで良いんだよ。」
『うん。…………ぐすん。』
この腕の中で強がる必要はない。