第37章 嫌だなぁ。
「マリモから事情は聞いたよ。怖かっただろう?」
『怖くなんて、無いよ。』
だが、心臓が押し潰されそうなくらい嫌で仕方がなかった。
少し、あの時の感覚に似ている気がする。
一度だけ血の力を使った時だ。
今、落ち着いて考えてみれば。
モトキが気を失っていたのは、きっと自分が力を使ったからだ。気を失った程度で彼が無事に済んだのは、ローを思う程の気持ちの強さが無かったからだろうか。
やはりイマイチ感覚が解らん、と下に向かって唸っていると、サンジのジャケットがカナエの肩に掛けられた。
強がらなくて良いんだ、と彼は優しく言った。
「しかし、あのクソ迷子野郎……こうなる事が分かってるってのに、カナエちゃんを置いて行くなんて許せねェ!」
『え、違うから!ゾロは私を助けようとしてくれてたんだよ、私が何とかするって言ったの!』
彼が一体どのようにサンジに状況を伝えたのか分からない。だがサンジの様子からすると、お互いに強気な発言をして挑発をして、一悶着あったに違いない。
「アイツを庇う必要は無ェ。後でマッシュポテトみてェにペースト状になるまで蹴り潰してやるから安心するんだ!」
『ヤメテ下さい!!私は大丈夫!何かキッドの時とパターンが似てるしね!』
「寸前で助けられるっていうパターンだな。」
『そうそう。……何故サンジがそれを……。』
「まあ、気にしない事だ。」
『でも、来てくれてありがとう。覚悟はしてたんだけど、いざとなったらさ、やっぱりね……。嫌になっちゃって……。』
「泣かないのかい?」
『………………うん。平気。』
泣いてたまるか。
「目の前にいるのはピンチを救ってくれた王子様だ。いつでも飛び込んで来て良いんだよ、カナエちゃん。」
バッ!と両手が大きく広げられると、煙草の煙がハートに形を変えた。
『ホントに大丈夫だよ。ありがとう。』
冗談とも取れるが、サンジは本気で言っているに違いない。
その、揺らぐ事の無い女性への優しさと気遣いがサンジらしくて、自然と笑顔になる。
「さあ!俺を抱き締めるんだ!」
『え……いや、だから大丈夫……』
「すぐにサニー号に向かわなきゃならねェ!ナミさんが俺を待っている!!!」
『えっ!?………あっ、え!!!』
船のピンチに現れるヒーローが、ここに居てはいけないのだ。